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悪役令嬢は冤罪でした。──死んだはずの事件記録を読み返す時、運命は書き換えられる  作者: 露草 ひより
第三章:盗まれた予言書と、沈黙する予知者
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第16話:沈黙の証人──失踪した側近と、二重記録の罠

夜明け前の空気は鋭く冷たい。


クラリスとエルミナは、王都から東へ三日──国境近くの寒村「ベレノ」に足を踏み入れていた。


「ここに、リース・アトウッドが隠れているというの?」


「正確には、“リースの名義で別人が暮らしている”という通報があったのよ」


エルミナは記録端末を操作し、行政記録の断片をクラリスに見せる。


『ベレノ村、鍛冶屋リース・アトウッド、年齢41。3年前に村に移住』


「……本来、彼は5年前に“行方不明”として処理されている。公式記録では“失踪”なのに、なぜこの村の戸籍に生存しているのか──二重記録の可能性が高いわ」


「記録を改竄して、別人になりすましてる……」


二人は村外れの古い鍛冶場を訪れる。


叩き続けられた鉄の匂い。真新しい工具。

中では、無骨な男が鎚を振るっていた。


「……リース・アトウッドさんですね?」


男の手が止まり、視線だけがゆっくりとクラリスに向けられる。


「名を名乗る前に、あなたは誰だ?」


「侯爵令嬢、クラリス・ヴェルンシュタイン。かつて王妃毒殺未遂の罪で断罪され、死ぬはずだった女です」


男の目が一瞬揺れる。


「……なんの用だ」


「真実を聞きに来ました。あの日、あなたは“王妃の命令で偽証した”。そうでしょう?」


リースの肩が小さく震えた。だが、すぐに無言で背を向け、鍛冶台の鎚を手にする。


「帰れ。ここで俺は“ただの鍛冶屋”だ」


「記録ではそうでも、真実はそうじゃない」


クラリスが一歩踏み込む。


「あなたの偽証が、誰かの死を招いた。私の処刑が本当なら、それは一人の人間を記録の上で“消した”ということ」


「……“記録”なんてな」


リースが呟いた。


「誰かが望むとおりに書き換えられる。俺の妹リラもそうだった。王妃に逆らっただけで、“事故死”にされた。証拠も記録も、跡形もなく」


「──だから、あなたは従った?」


「王妃に言われた通りに証言した。妹の仇に背を向ける代わりに、生き延びた。でも……それで終わったと思ったら、ある日、俺の戸籍が“勝手に再発行”されて、ここで別人として暮らしていた」


クラリスとエルミナが顔を見合わせる。


「“記録を塗り替える能力を持つ者”が、彼を再登録した?」


「誰が記録を管理していた?」


「名は名乗らなかった。ただ……“ローブを纏った女”だった」


クラリスの脳裏に浮かぶ。

──“アステリア伯の黒き法衣”。


「リースさん、証言していただけますか。あなたの過去を、記録ではなく、あなた自身の言葉で」


沈黙。

だがその沈黙の奥で、鍛冶鎚が床に置かれる音が響いた。


「……俺は、もう逃げたくない」


その言葉は、かつての“断罪劇”を覆す第一歩となる。


だが──村を離れようとした瞬間、山道に立つ黒衣の人影がクラリスたちを阻む。


「記録に触れる者は、記録に消される」


──“記録封殺官”が、現れたのだった。

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