第4話:王宮書庫に封じられた禁忌の記録
――王宮の記録が、改ざんされている。
それは、単なる書き損じや記録ミスではない。意図をもって“誰か”が、王妃毒殺未遂事件の核心情報をすり替えている。
私は今、その“中枢”に迫ろうとしていた。
目的地は、王宮書庫の最奥――禁書庫。
「クラリス嬢、お前……本気であそこへ入るつもりか?」
夜の回廊。
私に付き従うのは、セラス副長。
「禁書庫は王族とごく一部の上級官吏しか入れぬ。入館には“二重の封印”がある。もし見つかれば……」
「私はもう一度処刑された人間よ、セラス。今さら、死を恐れても始まらないわ」
セラスは短く息を吐き、手にした鍵束を掲げた。
「……ならば、俺が“偶然落とした”ということで、これを渡しておこう。俺は何も見ていない。……そういうことにしておく」
「……ありがとう」
禁書庫の扉は、まるで墓石のように重々しく、無言で私を拒んでいた。
錠前を二重に外し、扉を押し開けると、埃と紙の香りが混ざり合った古びた空気が全身を包み込む。
この部屋には、王宮の中でも“闇に属する記録”が封じられている。
私は、薄明かりのランタンを頼りに、書棚を一つずつ読み漁っていった。
(私が探しているのは、事件当日の記録……ではない。前提を疑え。“動機”を探すの)
王妃を殺す理由。
私を嵌める意味。
それらを統合するには、“事件以前”の記録を洗う必要がある。
やがて、私は一冊の革表紙の記録簿に手を止めた。
『王妃選定議事録――第五王子派による反対声明と、婚姻調整案の争点について』
中身を読み進めるにつれて、私は背筋が凍るのを感じた。
――現王妃アナスタシア・レントハイムは、第一王子派が推した候補。
一方、第五王子派はこの決定に強硬に反対していた。
“派閥間の争い”は王妃選定の裏で激しく火花を散らしていたのだ。
(つまり、王妃毒殺は、“第一王子派”を潰すための策略……?)
そしてもう一つ、私はある一文に目を見開いた。
「万が一、王妃の座が空位になった場合、王位継承資格は“再協議”され、現時点では第五王子派が優勢と見られる」
(王妃を殺せば、継承順位が再調整され、“第五王子”が……)
そうだ。
王妃が生きていては、王太子とその支持派が勢力を拡大する。
逆に王妃がいなくなれば、バランスが崩れ、権力構造が書き換わる。
動機はあった。
そして、その計画の中で、王妃に近しく“邪魔な存在”がもう一人いた。
「……私」
私は王太子の婚約者であり、王妃陣営の象徴だった。
その私に濡れ衣を着せて処刑すれば、まさに一石二鳥。
事件は“政治的な暗殺”であり、私は“計画に利用された駒”だった。
だが、それだけでは足りない。
私を罪人に仕立て上げるには、確実な“証拠”と“操作”が必要だった。
私はさらに奥へと進み、事件操作に関する記録簿を探した。
そして、そこにあったのは――
『人事局・記録操作許可ログ(極秘)』
開いた瞬間、私は息を呑んだ。
そこには明確に記されていた。
【命令者】リード・クロイス男爵
【対象】バート(禁衛詰所)/ルース(厨房)/厨房長の名義使用
【目的】「令嬢クラリスを事件に関与させるための記録工作」
【備考】第五王子派直属の命令であることを秘匿
「……これが、決定的な証拠」
名が挙がった――リード・クロイス。
彼は、前回の人生でも私の断罪時に証言台に立っていた男だ。
「セラス……これを見て……!」
私は禁書庫を飛び出し、急ぎセラスのもとへと向かおうとした。だが、そのとき。
カツ……カツ……と、石畳を踏み鳴らす足音。
「禁書庫に、誰が入っている?」
仄暗い廊下の向こうから、複数の兵士の影が現れる。
「見つかった……っ!」
私は咄嗟にランタンの灯を吹き消し、闇に身を沈めた。




