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悪役令嬢は冤罪でした。──死んだはずの事件記録を読み返す時、運命は書き換えられる  作者: 露草 ひより
第三章:盗まれた予言書と、沈黙する予知者
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第11話:香りのない紅茶

クラリスは、王妃毒殺未遂事件の真相を探るべく、深い霧の中を歩くような思いで厨房棟へと足を踏み入れた。

エルミナの密かな支援を受けながら、調達帳簿と香草庫の管理記録を手にすることに成功したのは昨夜のこと。


厨房内は朝食の支度で忙しく、香辛料の香りと湯気が立ち込めていた。そんな中、クラリスはひとり、目当ての帳簿をめくりながら首を傾げた。


「おかしい……確かに、例の“香り高い紅茶葉”は、王妃のお茶には常に使われていたはず……」


だが、事件当日の茶葉には、それが使われていない。代わりにごく一般的な紅茶葉が使用されていた記録が残されていた。


「……混入じゃなくて、欠落?」


クラリスは思い至る。「毒が入れられた」のではなく、「解毒や鎮静作用のあるハーブ」が意図的に省かれていた可能性があると。


王妃が日頃から好んでいた香草――ミルリュートという青い花の乾燥片。これは神経過敏を抑え、消化を助ける効果があることで知られている。もし王妃がそれを常飲していたなら、急激な発熱や震えの症状は起きづらい。


厨房長を問い詰めると、彼は顔をこわばらせた。


「そ、それは……実は、仕入れ担当の指示で……“手違い”ということで……」


クラリスの眼が細まった。


「その仕入れ担当の名は?」


「……ルヴァン、です。王妃付き女官の推薦で厨房に入った者で……」


クラリスはすぐに厨房裏の物資保管室に赴き、現物の香草束を確認した。そこには奇妙なことに、ミルリュートだけが、棚に丸ごと残っていた。


「誰かが意図的に使わせなかったのね……」


静かに呟いたその声には、怒りよりも冷静な怒りが滲んでいた。王妃の病は、明確な毒物によるものではなく、日常的な予防を断たれたことによる衰弱の誘導だった。


──それは、直接的な殺意を感じさせぬ、極めて知的なやり口だった。


「“犯人”は毒を盛ったのではなく、守りを奪ったのね」


その瞬間、クラリスの視界の中で、複数の人間の顔がよぎった。ルヴァン、女官、そして王妃に近しいはずの者たちの名前。


「誰が“命じた”のか、そして“なぜ”か。答えを手に入れるには、あの人に会うしかないわね……」


クラリスは視線を上げた。その先には、王妃の専属侍医――“静かな毒使い”と噂されるあの人物の名前が、影のように浮かび上がっていた。

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