表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は冤罪でした。──死んだはずの事件記録を読み返す時、運命は書き換えられる  作者: 露草 ひより
第三章:盗まれた予言書と、沈黙する予知者
37/47

第10話:告白と虚構

 王城・第三応接室。


 そこは、かつてクラリスが“婚約者”として王太子と頻繁に言葉を交わしていた場所だった。

 だが今日、その場にあるのは、柔らかな愛情ではない。鋭く張り詰めた空気だった。


「クラリス……いや、ヴェルンシュタイン嬢」


 先に口を開いたのは、王太子アレクセイ。


 美貌と知性を兼ね備えたその青年は、クラリスに対して穏やかな微笑を浮かべた。

 だがその笑みには、どこか嘘の匂いがした。


「わざわざこの場を設けたのは、“私の判断”ではないことを先に断っておく。父上の命令だ」


「そうでしょうね。あなたは、自ら私と再会しようとは思わないでしょう。

 断罪した“元婚約者”の顔など、見たくもないはず」


 クラリスは椅子に腰かけ、真っ直ぐに彼を見据えた。

 鞄から、一枚の写しを差し出す。


「これは、あなたが事件翌日に記録室を訪れた“記録ログ”よ。

 そしてその直後、王妃毒殺未遂の補正記録に、“私の名前”が加えられた」


 アレクセイは目を細めると、書類に軽く目を走らせ、ため息をついた。


「……懐かしい文体だな。これはたしかに“補正された文書”だ。だが、私が書き加えたわけではない」


「では、あなたは“その事実を知らなかった”と?」


「……否。知っていた。だが、止めることはできなかった」


 クラリスの目が細くなる。


「あなたは、“見過ごした”のね? 冤罪で私が告発され、断罪されるのを?」


「……あの日、あの場で君を救えば、国中の信頼を一度に失うことになった。

 王妃は昏睡。世論は毒を盛った者を探していた。“誰か”を差し出さなければ、混乱は収まらなかった」


 クラリスの口元がひくついた。


「そしてその“誰か”に、最も都合がよかったのが──“私”だったのね。

 王妃に疎まれ、宮廷で煙たがられ、王太子の婚約者という立場が盾になると思われていた」


 アレクセイは俯き、静かに言葉を漏らした。


「……君が無実だとは、最初から思っていた。

 だが、あのとき私は“王国の安定”を選んだ。君一人を犠牲にすれば、それで済むと──そう信じ込もうとした」


 その言葉を聞いても、クラリスは怒りを爆発させなかった。


 むしろ、冷ややかな目で問いを重ねた。


「では、なぜ記録を補正したの? 事実を曲げ、“嘘”を王国の公式記録とした?」


「……その命令は、私ではない。補正を命じたのは“母上”――王妃陛下だ」


「……っ、王妃が……? 自らが毒を盛られた事件なのに……?」


 アレクセイは重くうなずいた。


「毒は……王妃自らの指示で、“自分の茶に混入”させられたものだった。

 彼女は、その“茶葉の調達ルート”にある“敵”を焙り出すため、“自ら倒れる”ことを選んだ。

 だが事態は想定を超え、彼女は危篤に陥った。

 そして……目覚めた直後、こう命じた。“ヴェルンシュタイン嬢を犯人として処理せよ”と」


 クラリスは立ち上がった。背筋が冷たく震えるのを感じながら。


「なぜ私なの? なぜそこまでして……!」


「……お前は、あまりに“知りすぎた”。そして、記録を重んじる者として“危険視された”。

 母上にとっては、いずれ自身の“権威と制度”を脅かす存在だったのだろう」


 クラリスは静かに椅子の背にもたれた。


 王妃による自作自演の毒殺劇。

 王太子の黙認。

 そして、記録という“真実”さえも塗り替えられるこの王国。


(……ならば、私が正さなければ。この国の“嘘の中枢”を)


 クラリスは、アレクセイを見た。


「あなたにとって私は、何だったの?」


 その問いに、アレクセイは答えなかった。

 ただ、机の上に視線を落としたまま、こう告げた。


「……次に会うときは、“裁かれる側”として君に立ち会うことになるかもしれないな」


 クラリスは、背を向けて歩き出した。


 この国に潜む“偽りの記録”と、王家に連なる“真実の改ざん”。

 その全てを、暴くために。

書き終わった話の掲載が終わったので、一度完結済みにしておきます。

明日以降執筆が終わり次第、再開します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ