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悪役令嬢は冤罪でした。──死んだはずの事件記録を読み返す時、運命は書き換えられる  作者: 露草 ひより
第三章:盗まれた予言書と、沈黙する予知者
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第6話:予言者ノエルの最後の夢

 翌朝、クラリスは神殿街の裏手にひっそり佇む、かつての“夢見の間”を訪れていた。

 そこは、王都で一時期名を馳せた若き予言者――ノエルが拠点としていた場所だ。


 彼は数年前、王妃の信任を受けるも、ある日突然消息を絶った。

 だが、クラリスは記録の片隅に気づいたのだ。

 ――断罪の二日前、ノエルが最後に口にした“予言”が封印されたと。


「ようこそ、お嬢様……。あの人の“最後の夢”を見に来たのですね」


 出迎えたのは老いた巫女だった。白く濁った瞳に微かな光が宿る。


「私はクラリス・ヴェルンシュタイン。あなたにお聞きしたいのは、ノエルが最後に語った予言について。……それは、私の冤罪に関係しているはずです」


 老巫女はため息をつき、部屋の奥へとクラリスを導いた。


 木製の祭壇に、灰色の羊皮紙が一枚だけ残されていた。


「これが……彼の“最後の夢”の断片です。正式な記録として王家に届けられる前に、なぜか“破棄”されました」


 クラリスは羊皮紙に目を通す。そこには、短いが不気味な文が綴られていた。


『白き杯に影落ちし時、二重の証言は矛盾を孕む。

 無実の手は、毒を握らず。

 だが真に汚れし手は、記録の裏に潜む。』


 クラリスは息を呑んだ。これは明らかに、王妃毒殺未遂事件を指している。


「“二重の証言”……? これは、王妃の侍女と記録官の証言が、互いに食い違っているという意味?」


 老巫女は頷いた。


「ノエル様は、『真実は記録にない。記録に“潜む”』と繰り返していました。表層の記録だけでは、罪は暴けないのです」


「……まさに今の私と同じ結論に辿り着いていたということね。彼も、事件に何かを見た。でも、その直後に姿を消したのよね?」


「はい。彼は予言の後、“記録管理局”に出向いたきり、戻ってきませんでした」


 記録管理局――そこは、アステリア伯の直轄部門。前話で明らかになった“黒衣の記録者”とも接点があるはずだ。


「……ありがとう。これで点がつながった。ノエルの予言は、単なる夢ではなく、真相に至る鍵になる」


 クラリスは羊皮紙を返し、立ち上がった。


「私は行きます。黒衣の記録者を見つける。そして、記録の“裏側”に隠された真実を暴くわ」


 老巫女の声が背に届いた。


「クラリス様、夢に飲まれぬよう……どうかお気をつけて。真実は、時に毒よりも深く人を蝕みます」


 だがクラリスは、もうためらわなかった。

 冤罪を晴らすために、彼女はすでに“夢”ではなく“記録”の迷宮に踏み込んでいた。

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