第4話:王都より火が来たれり
予言は静かに動き出していた。
修道院から王都へ戻ったクラリスは、早朝の王宮で一通の報告書を手にしていた。
──王都第七区にて未明の火災。死者なし。だが、現場には不審な“火の紋章”が残されていた。
「まるで……模倣犯? それとも、警告?」
クラリスは迷わず現場へ向かった。
第七区。貴族街の外れにある倉庫群。焼け落ちた木造倉庫の壁に、それはあった。
──灰色の煤で描かれた円。中に並ぶ、三本の縦線。
火、火、火──旧語で「カルメル」と読む。炎の神、破壊の印。
ラファエルが横で囁いた。
「ノエルの記録にあった“火の歌”と一致する部分がある。けれど、ノエルの時代にはこの印はなかった」
「つまりこれは……“予言をなぞる者”が、新たに付け加えたもの。模倣者、あるいは──予言の“続きを作ろうとする者”」
「彼女の記録を悪用して、事件を起こしている?」
頷くと、クラリスは小声で呟いた。
「これはもう“過去の事件”じゃない。“現在進行中”のものよ」
ラファエルは真剣な表情で彼女に紙束を差し出した。
「僕の調査で、ノエルと同時期に“黙らされた子供たち”が三人いた。火を見る力を持つ、いずれも平民出身の少女たち……そして皆、謎の失踪を遂げてる」
「……子供たちに“共通するもの”が何かあるの?」
「ええ。皆“旧大聖堂付属の孤児院”出身。しかも──」
ラファエルは声をひそめた。
「その施設の運営には、王妃派の貴族たちが深く関わっていた。中でも、現在の枢機卿《アステリア伯》の名が出てくる」
「枢機卿……彼が?」
アステリア伯──かつてクラリスの“裁判”でも積極的に断罪の言葉を述べた男。だが、当時からどこか“演技がかった冷たさ”が引っかかっていた。
「つまり、ノエルたちは“予言を持つ子供たち”で、それを管理しようとした派閥があった?」
「そして今、それを復活させようとしているか──あるいは、“封じられた真実”を焚き消そうとしてる」
ふたりは、焼け跡に立ち尽くしたまま、黙った。
そこに、風が吹いた。煤が舞い、地面に落ちていた紙片がひらりと翻る。
拾い上げたそれには、手書きでこう記されていた。
《予言はまだ終わっていない。火は記録を焼き尽くすだろう》
「……これは、警告じゃない。挑戦よ」
クラリスははっきりと言い切った。
「私たちが記録を読む者である限り、あの者は“書かれること”を恐れている。ならば、書いてやる。
どれほど隠されようと、私が“真実を記録する”。それが──罪を着せられた令嬢としての、私の矜持よ」
静かに、だが確かな決意が彼女の眼差しに宿っていた。
一度完結済みにしておきますが、本日中にはあと1話だけ今執筆中なので更新します。




