表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/47

第3話:菓子に仕込まれた毒と、無自覚の証人

 ──王妃が倒れた原因は、菓子に仕込まれた“ストロファンシン”。


 それは私の記憶に刻まれた記録であり、いま実際に厨房で痕跡も確認できた。

 ならば、次に追うべきは――菓子を作った者だ。


「……厨房見習いのメアリ・グラッセ。十五歳。前回の人生では、結局“ただの替えの当番”と処理されたはず」


 私はメアリのいる使用人寮へと足を運んだ。


「クラリス様……!? ど、どうしてこんなところに……っ」


 寮の裏手、洗濯干し場。

 小柄な少女が、手に洗濯籠を抱えて振り返った。

 ふわふわの栗毛に、幼い印象の顔立ち。これが、事件当日、王妃の菓子を作った見習い――メアリ。


「あなたに話があるの。少しだけ時間をもらえるかしら?」


「え……ええ、もちろんです……」


 メアリは緊張した面持ちで、私に従った。


 私は、寮から離れた中庭のベンチに腰を下ろし、言葉を選びながら口を開いた。


「単刀直入に聞くわ。──あの日、あなたが作った菓子に“代役を命じた人”は誰だった?」


「え……」


 メアリの目が揺れる。


 そうだ、彼女は“無自覚”なまま、毒の混入を手伝わされていた。


「私が知る限り、本来の菓子担当はルースのはずだった。なのに、前日急に体調を崩し、代役としてあなたが任された」


「は、はい……そうです。ルースさんが高熱を出して倒れてしまって。急遽、厨房長に呼ばれて……」


「“厨房長”に呼ばれた? それは確か?」


「……いえ、えっと……そう言われただけで、実際に顔は見ていません。伝令の人が来て、『厨房長の命令で、あなたが明日の菓子担当だ』って」


「その伝令は誰?」


 メアリは逡巡し、震える指で口元を押さえた。


「た、たぶん……警備詰所のバート様だったと思います。でも、その日は顔が半分隠れていて……マスクのようなものをしていたから、確信はなくて……」


(やはり、“バート”)


 厨房の毒痕跡に関する記録と、セラス副長が語っていた“矛盾”した証言に名があった男。

 そして今、別の目撃証言でもその名が出てきた。


「……メアリ、あなたは毒を入れた覚えはある?」


「え? そ、そんな……あるわけがありません! 私、毒なんて触ったことも……」


「では、誰かが“仕込み済み”の材料を渡してきた可能性は?」


「えっ……?」


 彼女の顔が青ざめていく。ゆっくりと、記憶を辿るように語りはじめた。


「そういえば……粉砂糖の瓶が空で……私が取りに行こうとしたら、“既に用意されている”って、小瓶を渡されたんです。誰にかは、覚えてなくて……手袋をした人で、顔も見えなかった……」


「どこで?」


「厨房の、裏口の近くの……物陰でした」


(“顔の見えない伝令”と“裏口で手渡された粉砂糖”……意図的だ。メアリに罪を問えないよう、“無自覚”に動かされた)


 つまりこの事件は、菓子を作らせる人物、毒を混入させる人物、証言をコントロールする人物──複数犯の可能性が高い。


「ありがとう、メアリ。あなたは何も悪くない。むしろ、あなたの証言がなければ、真相には近づけなかった」


「で、でも私、まさか毒を混ぜたなんて……そ、そんな……ッ!」


「大丈夫よ」


 私は、メアリの震える肩をそっと抱いた。


「このままだと、あなたも“罪人”にされかねない。けれど、私は……その未来を変える」


 夕刻、私は再びノートを広げ、整理を始めた。


 【新たな事実】

 ・見習いメアリは、当日“粉砂糖の小瓶”を手渡されている

 ・ルースの体調不良は、“前日夜”に仕組まれていた可能性

 ・厨房長の名を騙った“伝令”が、任命を偽装

 ・複数の人物が、異なる役割で関与している可能性あり


(これは、単なる私怨や嫉妬ではない。──もっと、大きな意図がある)


 なぜ“王妃”が狙われたのか。

 なぜ私が“濡れ衣”を着せられたのか。

 その理由が、まだ見えてこない。


 ふと、誰かの声が聞こえた。


「クラリス嬢。報告がある」


 扉を開けたのは、セラス副長だった。


「詰所のバートだが、三日前から“行方不明”になっている。だが、正式な異動届けが提出されていた」


「異動届け……誰が出したの?」


「王宮人事局の印があった。だが、署名が偽造の可能性がある。──文書管理係のひとりが、不審な動きをしていたと聞いた」


 私は立ち上がる。


「つまり、記録自体が改ざんされていた……バートの動きを隠すために」


 セラスは静かに頷いた。


「“誰か”が、王妃を毒殺し、君を罪人に仕立て、関係者を記録から消そうとしている。もはや、偶然では済まされない」


「……これで“偶然”だと言えるなら、それこそ魔法でしょうね」


 私は目を細め、記録の最下段に書き記した。


 ──事件は、計画されたものである。

 ──真犯人は、王宮の“記録”と“人事”にまで手を伸ばしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ