第1話:予言は書き換えられない?
王都から南へ三日。辺境領の高台にある小さな修道院──そこに、かつて王都の令嬢だったクラリスは身を寄せていた。
表向きは留学。だが、実態は“追放”。王宮で暴いた不正の代償として、彼女は王妃派から睨まれ、レオンハルト殿下もあえて彼女を遠ざけるように動いた。
だがクラリスは後悔していなかった。
「おやすみなさい、クラリス様」
静かな石造りの部屋に、ろうそくの明かりが一つ。小さな書き物机に向かって、彼女は新しい日誌を開いた。
──“事件記録 No.02”。
そう書かれた革張りの手帳に、彼女は細い文字で新しい一文を刻む。
『予言とは何か。未来は定まっているのか──それとも、記録によって変えられるのか』
そして始まる、新たな謎。
その翌朝。修道院に一人の使者が訪れた。
「この手紙を……“記録の乙女”と呼ばれる方に届けてくれと」
名乗りもせず、使者は書状だけを置いてすぐに立ち去った。
「“記録の乙女”?……まさか私?」
封を開くと、そこには見覚えのない筆跡でこう綴られていた。
《預言書が盗まれた。沈黙した予知者は、口を閉ざしたまま死んだ。
だが、死の間際、こう残したという。
『記録の乙女に読ませよ。過去を書き換えた者ならば、未来もまた──』》
クラリスは息を飲んだ。
「……預言書の盗難? そして、未来が“書き換えられる”……?」
これは、王都での事件よりももっと大きな──“時間そのもの”を揺るがす謎なのかもしれない。
その夜。
クラリスは修道院の司書長・カリスタ修道女に呼び出された。彼女は静かに、ある鍵を差し出した。
「東塔の禁書室に、かつて“未来を書き記した本”が保管されていたのをご存じ?」
「いえ、そんな本が……?」
「それが盗まれたの。しかも、“預言者”と呼ばれた者が、死んだ直後にね」
「それは……偶然とは思えません」
カリスタは頷く。
「だから、あなたに託すの。未来が書かれていたという本、その痕跡を探して。あなたには“記録”の目がある」
まただ、とクラリスは思った。
過去の“記録”だけでなく、今度は“未来の記録”まで読むことになるなんて。
──けれど、逃げるつもりはなかった。
「承知しました。ですが、予言とは……本当に書き換えられるものなのでしょうか?」
「それは、あなた自身が答えを見つけることよ」
翌日。クラリスは“予言書の痕跡”を探すため、禁書室の調査に入る。
そこには焼け焦げた紙片が一枚だけ残されていた。化学的な薬品がしみこんでおり、読解には時間がかかる。
しかし、彼女はその端に、こう書かれているのを見つける。
『八月二十三日、灰の予言が成される。王が落ち、火が城を包む。』
──それは、未来の火災。そして王の死。
「この日付、あと……三週間しかない……!」
彼女は静かにノートを開く。
これは、未来を救うための“記録”になるかもしれない。
だがその記録は、予言通りの未来をなぞるものか。あるいは、予言すらも変えてしまうのか。
──それは、まだ誰にもわからなかった。
話のストックが切れたので、一度完結済みにして。明日以降執筆が終わり次第、更新します。




