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第12話:記録保護法という壁

 錬金塔の地下にある拘留室は、思いのほか整然としていた。

 石造りの壁に灯された魔法燈が、規則正しく点滅している。冷たくも静謐な空間。


 クラリスとユリウスは向かい合うように座らされ、扉の外では衛兵が監視をしていた。


 「……記録保護法違反、ね」


 クラリスは腕を組み、口の中で繰り返した。


 「それって、建前のはずでしょう? 本当の理由は、王妃にとって不都合な文書を開いたから」


 「おそらく……そうだろう」


 ユリウスは静かに答えたが、顔は苦悩に満ちていた。


 「だが、記録保護法は厳密に存在している。王室の“記録”は国家の柱。その管理違反は、大罪とされる」


 「だけど、その法律が“真実の隠蔽”に使われてるなら……どうなのかしらね」


 クラリスは目を細めた。


 そもそもこの国で記録が重要視されるのは、「書かれたものが、歴史となる」からだ。

 ゆえに、王室や上位貴族の命令が記録され、それが未来の判断基準となる。


 だが、それを“封印”し、“不都合な真実”を闇に葬るために記録保護法が使われているとすれば──?


 「記録が“真実”である限り、それを守る法は正しい。だけど、“嘘のための記録”なら?」


 クラリスは呟いた。


 「記録保護法自体が、記録を殺している……皮肉ね」


 そのとき、扉が開く音がした。


 現れたのは、一人の少女だった。


 濃紺の制服に身を包み、金のフレーム眼鏡をかけた彼女は、記録省の高等官──クロエ・リントヴァルだった。


 「おふたりとも、ご無事でよかった。処分はまだ確定していません」


 クロエは一礼すると、隠し持っていた紙束を差し出した。


 「これを。あの記録封筒の裏に、隠し番号が書かれていました。“交差記録”と呼ばれる、関連ファイルを示すものです」


 ユリウスが食い入るようにそれを見る。


 「“I-77”、“M-04”、“N-23”……これは、記録の相互照合コードか」


 「ええ。そして、そのうち一つは“記録室の通常棚”に分類されていたんです」


 「つまり、王妃の手紙と繋がっている文書の一部は……“封印されていない”」


 クラリスの目が光った。


 「その記録を見れば、証明できるかもしれない。王妃が“自作自演”を企てた証拠を」


 クロエは頷いた。


 「ですが、私があなた方をここから出せば、私も違法になります」


 彼女の表情は硬い。


 「だから、方法は一つしかありません。——“公式手続きを通じて異議申立てをすること”です」


 「……異議申立て?」


 「拘留中であっても、貴族であるクラリス様には“異議申し立ての権利”があります。異議が成立すれば、記録の再審査が認められます」


 クロエの声は冷静だった。


 「ただし、成立の条件は一つ。“第三者の証言”が必要です。しかも、その証人は“記録に関わった人物”でなくてはならない」


 クラリスはすぐに思い当たった。


 ——あの毒の処方を指示されていた人物。

 ——ユリウスの師でもある、禁薬研究者・アイリーン。


 「……彼女の居場所がわかれば、証人になってくれるかもしれない」


 ユリウスの顔に、緊張と希望が交錯する。


 「ただ、彼女は三年前の追放以降、姿を消している」


 クロエが小さく頷いた。


 「ですが、最近、“灰の森”の南部で、それらしい人物が治療活動をしているという報告がありました」


 ユリウスは立ち上がった。


 「行こう。僕が、彼女を見つけ出す」


 「待って。まずは異議申立てを。そうすれば、仮釈放の扱いで動けるわ」


 クラリスは、強く頷いた。


 ──記録が封印されたのなら、それを“再び記す”ことが必要なのだ。


 「クロエ。あなたの協力、心から感謝するわ」


 「私は……ただ、記録は“真実を語るため”にあると信じているだけです」


 その言葉に、クラリスは静かに微笑んでいた。

書いたお話のストックが切れたので、また一度簡潔にさせていただきます。

明日以降執筆が終わり次第、連載を再開し、掲載いたします。

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