第1話:処刑直前、私は「記録」を思い出した
人々の視線が、私に突き刺さっていた。
断罪の広場──王都中央に設けられた石造りの壇上。貴族の罪人が処刑される、この国でもっとも「劇的な舞台」である。
「侯爵令嬢クラリス・ヴェルンシュタイン、貴女は王妃毒殺未遂の罪により──」
ああ、知っている。これで三度目だ。
私は既に二度、死んだ。いや、正確には“死ぬ寸前まで”を二度、繰り返している。
一度目は、本物の断罪。王太子殿下に婚約破棄を言い渡され、民衆の怒号を浴び、処刑される寸前で意識が薄れていった。
二度目は、なぜか断罪の直前に戻っていた。私は焦り、弁明し、証拠を集めようと奔走した。だが、間に合わなかった。
そして──これは三度目。
私は、もう一度“断罪の舞台”に立っている。
(今度こそ……)
首に冷たい鉄が当てられる。ああ、処刑人が刃を構えたのだろう。視界が揺れる。
そのときだった。
私の脳裏に、ありえないほど鮮明な「記録」が、洪水のように押し寄せてきた。
(あのとき、私は確かに……王宮の記録室で──)
──王妃が倒れた当日、厨房には通常と違う当番が入っていた。
──毒はティーセットにではなく、添えられた菓子の中に。
──王妃が倒れた直前、隣にいたのは「騎士団副長」で、彼はなぜか……。
(……あれは、読んだ記録? それとも……?)
わからない。ただ確かなのは、私の頭にあるその“事件ログ”は、現実の出来事と恐ろしいほど一致していること。
そう──私の中には、死ぬ前に読み返した全ての記録が「完璧に」残っている。
もしかして、これは「やり直すための鍵」なのでは……?
次の瞬間、視界が暗転した。
また終わるのか? 三度目の死か? いや、今度こそ──
「……!?」
私は、目を開いた。
暗い天井。微かなランプの灯。――これは、私の部屋……?
窓から差し込む光が、朝の訪れを告げている。
──カレンダーを見た。
断罪の、二日前。
「……やり直せる。今度こそ……真犯人を、暴いてみせる」
私は、震える手で記録ノートを手に取った。
“死んだはずの事件記録”が、今、再びページを開こうとしていた。




