第25話 ヒノと精霊イフリート
「ふあー! 気持ちよかったあ!」
「……温泉。いい……」
皆それぞれホカホカになりながら温泉から上がってくる。
「でさ、ヒノ先輩。修行の成果って?」
「おう! ……ちょうどよく相手が来たみたいだぞ」
ヒノもアモルも気づいた。この気配は間違いなく。
「こんな暑いところにいたのね……」
またしてもアーマが飛んできた。
しかしさすがのアーマも暑さの影響か、いつもより覇気がない。
「よー、あの時は世話になったな」
「……っ。ついにヒノちゃんまで合流しちゃったのね」
アーマは苛ついていた。
ついにヒノまで合流していたこと。それもある。
だがそれだけではなかった。
(結局、あのゴーレムを倒すのにあの方の手を煩わせてしまった……)
そう、アスが呼び出したゴーレムはかなりの時間アーマを足止めした。
結果、アーマ、いやアーマの主が手を出したのだった。
(これ以上、あの方に迷惑はかけられない)
アーマは大鎌を展開する。そしてさらに……。
「出なさい、下僕たち!」
合図を送ると、大量のモンスターがアモルたちの周りを囲んだ。
「これは……」
「この下僕たちの数! そして私がいれば! もうあの方に迷惑はかけない!」
アーマの突撃に合わせるように、モンスターたちもアモルたちに押し寄せていく。
「へっ! まさにオレの見せ場だな!」
ヒノが杖を構える。魔力が集まっていく。
アモルとアスはすぐに気づいた。
「これは……」
「まさか!」
アスの驚きも当然だった。
ヒノがやろうとしていることは……。
「来てくれよ! イフリート!」
ヒノと皆を守るように炎が展開される。
そしてヒノの上空から火の精霊イフリートが降臨した。
「精霊召喚!」
「しかも火の精霊イフリート!?」
アスが以前呼んだ『ゴーレム』も、岩の精霊として上位の精霊だ。
しかしイフリートは四大属性の火を司る大精霊である。
「イフリート、ですって!?」
アーマも驚き動きが止まる。
だがすぐにモンスターたちに告げた。
「退きなさい! 下僕たち! 焼き殺されますよ!」
だが間に合わない。
集結しすぎたモンスターたちは勢いがありすぎて急に止まれない。
「いくぞ」
イフリートの炎が周りを焼き尽くす。
アモルたちの周りに近づいていたモンスターたちは皆、灰も残らぬほどの威力に消滅した。
「す、すごい……」
アモルたちも驚きで動けない。
周りにいたモンスターを全滅させたこともだが、
それでいて、アモルたちにはまるで熱さを感じさせなかったこともだ。
「どうだ、アモル! オレの力、すげーだろ!」
「ヒノよ、我の力だ」
ヒノが杖を掲げながら喜ぶと、イフリートが友人のように突っ込みをいれる。
まるで、長年の戦友のように。
「さて」
イフリートの巨体がアーマに向いた。
「久しいな、アーマよ」
「!」
イフリートの声に、呆然状態だったアーマが反応する。
「この程度で唖然とするとは……貴様本当にアーマか?
昔の貴様は下僕のモンスターなど、使い捨ての物のように扱っていたろうに」
「だ、黙れ、イフリート!
貴様こそ何故そこの小娘、ヒノに召喚されている!?」
アーマだけでなく、皆が聞きたかったことだった。
「何をおかしなことを聞く。
我々が召喚される。それは契約したからだが?」
「っ……! そういう意味じゃない!
何故小娘と契約していると聞いている!」
その問いにヒノが答えた。
「ここで修行してたら仲良くなったからだよ、悪いか!
あと、小娘って呼ぶんじゃねー!」
その回答にアーマはさらに驚く。
「仲良くなったから……だと?」
アーマは苛立ちながら大鎌を構え、ヒノに突撃する。
「ふざけるな! そんなあっさりと大精霊と契約できるなど!」
それにはアスやスイ、フウも同意したが黙っておく。
「させぬ」
イフリートがアーマの大鎌を受け止める。
「ぐっ!」
「ぬう!」
巨体のイフリートだが、アーマの実力もすごいもの。
大鎌を抑えるのにイフリートも久方ぶりに力を込めた。
「なるほど、力は衰えてないらしい」
「貴様も! 小娘との契約とのわりには変わらぬ怪力を!」
イフリートはアーマの大鎌を押さえながらヒノを見て、すぐにアーマをの方に視線を戻す。
「忘れたかアーマよ。我ら精霊との契約の力はただ魔力で決まるのではない。
契約者との意思疎通、相性で決まる。それで言えば我とヒノの相性は――」
イフリートが片手でアーマの大鎌を押さえこむ。
「――最高クラスだ!」
イフリートの炎の鉄拳がアーマに直撃した。
「がはっ!?」
イフリートの一撃を受けアーマは火山地帯から大きく吹き飛ばされていく。
「す、すごい……」
アモルたちは皆、吹き飛んでいったアーマの方向と、イフリートを交互に見る。
「……これじゃあ、前回、ゴーレムを呼んだボクの立場がないじゃないか」
冷静なアスが珍しく不貞腐れたような表情でヒノを睨む。
「……そこのヒノの姉妹よ。ゴーレムも気難しい精霊。呼び出せるのはすごいことだ。誇るがいい」
「だってよ?」
イフリートとヒノがアスを見て微笑んだ。
「で、でも、これなら……」
シオンとエレテが割って入り、アスとヒノ、イフリートを見る。
「アス先輩とゴーレム、ヒノ先輩とイフリート。
アーマも吹き飛ばせるくらいなら――」
「今ならラヴを救出できるかもしれない!」
アモルもイフリートを見上げ、希望の目を向ける。
だがすぐに、イフリートは巨体の首を横に振った。
「ど、どうして!?」
「アモル……と言ったか。我の力を頼りにしてくれるのはありがたい。
だが我やゴーレムだけでは不可能だ。あそこにいる奴にはな」
「邪神ダークは……そこまで……?」
「知っていたか」
イフリートは学園跡の方角の闇を見る。
「邪神ダーク。過去の戦いでコガネ神により力の大半を封印された。それは知っているか?」
「ええ、図書館の本で」
「だがな。その力の大半を封印されていてもなお、
過去の戦いでは我らをも上回る力を奴は持っていたのだ」
「で、でも、それじゃあどうやって昔は、邪神ダークを倒したんですか!?」
その問いに、イフリートはアモルを見下ろすと一言。
「わからん」
とだけ呟いた。




