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数千文字の物語

ひとりごと

 ずっと前から君のことを見てる。

 でも多分君は気づいてない。こっちをビタッて見てきたことないもん。今もきっと分かってない。……だってわたしが勝手に付いていってるだけだし、普通は気付かないもんね。でもストーカーみたいになるのは嫌だから、近くにいるのは学校のある時間だけにするって決めた。



 毎朝「おはよう」って笑う君が可愛くて、それだけで元気をもらえる。

 お喋りな君の話を聞くのが好きで、通学路、ずっと毎日の楽しみなんだよ。くだらないイタズラの話とか、昨日観たテレビの話とか、好きな選手の話とか。


 休み時間、よく寝てるよね。

 穏やかな寝顔を見てると、こっちも癒されるんだ。

 でも無理は禁物だよ。サッカーも勉強も頑張ってるけど、体調崩しちゃいけないから。

 今日もお疲れ様。えらいね。……昔はよく先生に怒られてたのに、大きくなったね。



 そういえば、昔はよく休日にゲーム機を持ち寄って、みんなで一緒に遊んだよね。

 わたしは君より下手だったけど、いつも合わせて遊んでくれて、優しいなってずっと思ってた。でも、わたしもできるゲームはとびきりイジワルになったりもして。「もう!」なんて怒りながらも、そんな君との時間が楽しかった。


 わたしが転んで泣いたとき、なぐさめてくれてありがとう。

 「代わりに一位取ってやるから」って君がリレーで勝ったとき、本当にかっこよかった。嬉しかった。ハイタッチして一緒に喜んだよね。懐かしいなぁ。


 もう、あれから何年も経ったね。背、伸びたね。もっとかっこよくなったよね。

 昔「チビ」ってからかったら怒られたの、まだ覚えてるよ。

 あのときはごめんね。

 もう君の方がずっと背が高くなって、わたしは追い越されちゃった。

 高校生だもんね。そりゃあ背も伸びるかぁ……って思いながらも、わたしは大体君より高いところにいるんだけど。



 ……最近、クラスのあの子と仲良いね。部活のマネージャー、やってるんだっけ。いいなぁ、あの子は。君の側にいられて。……嫉妬しちゃうな。仲良しで。

 ただ見つめてたって分かんない、って分かってるけど、そんなに嬉しそうに君が笑ってるのを見ると好きなのかな、なんて思っちゃう。

 ううん、いいんだよ。君が誰を好きになったって。小学生の時の「好き」なんて、とっくに消えてておかしくないんだもん。

 わたしだけ想ってたって重いかもしれない。でも――


 あのね、わたし、楽しそうな君が好き。笑ってる君が大好き。ずっと君にそうあってほしい。君に嬉しいことがあったら「やったね」って、本当は君の隣で何倍も喜んでみせたい。


 でも、わたしの声はどうやっても届かない。


 届かないし、そもそも君の中では終わってるかもしれない。過去の思い出かもしれない。でも、わたしはやっぱり君が好き。重いかもしれないけど、君が好き。



 そうやって君とのことをもどかしく思うことがあるように、君にも上手くいかないこと、あるんだよね。分かってる。でも、運動場の雨さえも冷たく君に降りかかって、ユニフォームも靴もぐちゃぐちゃで……。


 いつか「一流選手になるんだ」って語ってくれた夢、まだ君が持ってて、頑張ってるのが嬉しい。

 でも、泣いてる君を見ていると辛くなった。

 お願い、泣かないで。

 出来ることなら、君の辛さを分けてもらって軽くしてあげたい。でも出来ない。隣で頭を撫でてあげたい。でも出来ない。

 あぁ誰か、この人を代わりに抱きしめてあげて。あの子……マネージャーのあの子でもいい。ううん、君が望むなら誰だって。


 わたしは君が好きだ。

 優しくて、かっこよくて、ずっとヒーローみたいで。そんな君に恋をした。この先もずっと大好き。

 でも(だから)、君の幸せが一番。

 君に笑っててほしい。

 だから願うよ、想うよ。

 元気でいて。夢を叶えて。

 誰とだって、いいの。君の好きな子と幸せになって。



 そうしていくらか日が経って、君の幸せを願っていたらお墓の前に君が来た。

 命日には絶対来てくれる。……ううん。そうだけど、違うね。普段から本当によく来てくれるよ。何でもない日にも。ふらっと立ち寄ってお花くれたり、最近のこと話してくれたり。そうしてると、まるで昔に戻ったみたいな気分になるの。君が話しかけてくれるから。


 今日だって、ちょっと待ってた。君は来てくれるかななんて思って、うろうろ。

 でも、やっぱりちょっとだけ寂しいな。お返事、返せたらいいのにね。


「――春だね」


 君が口を開いた。

 そうだね、そろそろ桜も咲くかなぁ。


「今日さ、ヒヤシンス持ってきた。綺麗でしょ」


 そう言って君は青色のそれを見せてくれる。

 うん。綺麗。……よくくれるね、青いお花。覚えててくれてるのかな。青色好きって。


「……五年、経っちゃったね。俺さ、まだ寂しいよ」


 何でそんなこと言うの。わたしも寂しくなっちゃう。


「でもさ、偶に夢に出てくんだよ。昔の時の姿でも、おんなじ高校生の姿でも。昔みたいにゲームしたり、たくさん喋ったりしてさ。……懐かしいね」


 ……そうだね。よく遊んだよね。別に典型的な幼馴染とかではなかったけど、割と近所でさ。いっぱい泥まみれになったり、虫取ったり。……ずっとそんな日が、続くと思ってたな。


「――ねえ……最期の時さ、俺泣いてばっかで、全然何も言えなかったけどさ」


 地べたに座り込む君はあぐらのまま少し揺れて……


「ありがとうね。俺とたくさん遊んでくれて」


 ……ばか。

 涙が滲んで、喉が痛くなった。


 ――あの日、もうここで終わっちゃうんだってそんな気がして悲しくて悔しくて堪らなくて。折角お見舞いに来てくれた君に八つ当たりした。なのに君は「ごめん」って「いいよ」って、受け止めてくれて。「助けてあげられたら」って泣いて。

 それでわたしも、もっと泣いちゃって。

 その後に「ごめん」を言えたことよりも「好き」をもっと、ちゃんと言えなかったことの方が大きく残った。


 だけどさ、病室でみんなに囲まれて、ちょっとだけ見えたぼやけた視界で、君が泣いてるのが最期見えたんだ。そこでまたやっぱり「ごめん」って思ったんだよ。

 もし君とまた話せるなら、伝えたいことも言いたいことも多すぎて、きっと先にわたしの喉が枯れちゃう。


 ……君の目に涙が溜まってるのが見える。ここじゃ絶対泣かないの、強がりなの? 知ってるよ、時々墓地出た途端にずびずびいってるの。


「今も好きって言ったら、困る?」


 動かない筈の心臓がとくんと鳴った。

 なんだ、気持ち、変わってないの。本当、真っ直ぐだな君は。


「困る訳ない。だって、ずっと好きだよわたしも」

「え?」


 どうして? 何で?

 初めて届いた言葉にわたしが戸惑っていると、君は慌てて立ち上がって辺りを見回す。


「いるの? ねえ」


 ずっといたよ、君の側に。

 ……でも、もう声は届かないみたい。何でなんだろう。


 寂しそうな君が溜め息を吐いた。

 でも、前を向いて


「また、喋れたらいいね」


 わたしも口もとが緩む。

 そうだね、またお喋りしたいね。


「また話そう。俺、たくさん話したいことあるから」


 わたしもいっぱいあるよ。……ふふ、これじゃきっと、すぐにお話の時間は終わっちゃうよ。でも……


「じゃあね、またね」


 そう笑った君の顔は、変わらない。昔と同じに明るくて、優しい。

 またチャンネルが合う時まで、暫くお別れ。


 だけど、きっとまた話せる。そんな気がする。だからそんなに寂しくはない。

 ……何だか、楽しみが出来ちゃったな。


 墓地を去っていく、軽い足取りの君を見ていて、思う。


 ありがとう、今日来てくれて。ありがとう、好きを伝えてくれて。わたしの好きを伝えさせてくれて。

 また君と話す時は、色々変わってるのかな。おんなじ君の顔かもしれないし、君の隣にはわたしの知らない誰かがいるかもしれない。

 でも、何だかもういいんだって気持ちになった。心が晴れた。


 君は……これからもきっと色んなことを体験するんだろうね。楽しいことも、辛いことも。その度君は向かい合うんだろうけど、わたし、そんな君の人生を応援したいな。隣でなくたっていい。君が人生の最後、笑ってられることがわたしの一番の願い。

 誰と幸せになってもいいよ。何をしたっていいよ。わたしは君の全部を愛してるから。

 だから

「わたしに縛られないで」


 君の自由に生きて、それで、幸せになってね。

読んでくださりありがとうございます。

設定などへは下から飛べるので、気になる方は覗いてみてください。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25118527

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