第3話 星間の海へ
ジル・ナイトシェイドと他の3人の訓練生たちを乗せた宇宙船、semi−intershipは、地球から3000光年ほどの距離にある射手座の散光星雲の近くを航行していた。
「おっ、彗星発見! みんな、窓の外に注目! 太陽と反対側の方向に、青い彗星の尾が見えるよ」
インターシップの操縦席で、訓練生の一人が甲高い声をあげて、フロントガラスを指差した。ジルより二つ年上の彼は、熱心な彗星捜索家で、彗星が恋人の“彗星オタク”だ。
天の川に長く尾をひいて地球へ落ちてゆく彗星は、青い光の筋を星の間に残したとたん、ふっと姿を消してしまった。それでも、まだイオンテイルの残像が頭の中では、きらきらと輝いていて、訓練生たちは、しばらくは降るような星の列から目を離せないでいた。
「僕はあの彗星の尾に、地球に向けての僕たちのメッセージを乗せたいと思っているんだ」
彗星オタクの彼は熱を込めて、そう言った。
「……」
ジルは、ちょっと顔をしかめてしまった。
「彗星の尾に? そんなことができるなんて聞いたこともないわ」
「彗星の尾から電磁波が観測されたのを知ってる? それを利用して、モニターの映像や音声のように僕らの言葉を地球の人たちに伝えることができないかな」
……理論的には可能でも、実現させるのはとても難しいわ ― と、ジルは思ったが、
「故郷の星を亡くしてしまった私たちから、あの青い地球に警告のメッセージを送れるなんて、すごく素敵だと思うわ」
と、笑ってみせた。
彼らが住むコスモベースは母体となる“星”を持たない単独の宇宙基地だ。なぜなら、彼らの母星はとうの昔に消滅してしまったのだから。
限界までの発達が、境界線を越えてしまった時、彼らの星は突然、崩壊した。そして、宇宙開発のために特に優秀として選ばれ、コスモベースに滞在していた百人に満たない研究者たちとその家族だけが、アンドロメダ星雲に取り残された。
“ワープ航法に入ります。ワープ航法に入ります”
再び、semi−intershipの警報音が鳴った。
フロントガラスに目をやり、計器で現在位置を確かめてから、ジルは興奮気味に言った。
「10分後にまた、ワープ体制に入ります。みんな、席について安全体勢をしっかりと取って。今度は一気に地球の近くまで飛ぶわよ!」
モニターの映像の中で、
雲の隙間から太陽の光を受けた地球の海が、コバルトブルーに輝いている。
暗い宇宙の空間に浮き上がった限りなく透明なその色を見ていると、なんとなく厳かな気分になってくる。ジルは、操縦席の安全バーをおろし、ほうっと小さく息を吐いた。
銀河の果てから見つめているだけなら、とても美しい地球。
けれども、
温暖化、オゾン層の崩壊、異常気象、水不足、気象の変動、洪水、旱魃、食料不足。
それに伴う大量の難民の増加と地域紛争。
それを放置しておいたなら、あの星は、ほとんど私たちの星と同じ道をたどる事になる。
もし地球から8.6光年離れたシリウスA、あるいは25.3光年離れたベガが超新星爆発を起こしたら、地球に住む生命はほぼ確実に絶滅するか壊滅的な打撃を受ける。そんな危険な仮説だって、有り得ないとは言い切れない。
「地球の人とコンタクトを取れたなら、私は真っ先にそれを伝えたいわ」
独り言のように呟いたジルの言葉が終わらぬうちに、
“ワープ開始、ワープ開始”
宇宙船の中に、再び、警報音が鳴り響いた。そして、光速の波に乗った“semi−intershipは、星間の海を一気に突き抜けていった。




