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ローレライ2025  作者: RIKO(リコ)
第二部 地球編 First-Magnitude Star(一等星)
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第5話 アウルの夢

 NYの夜、9:00PM

 ミムラは引率している生徒たちの点呼をすませて、学校の寄宿舎への帰路を歩いていた。停電の影響で、地下鉄サブウェイはかなり遅れが出てしまっていた。


「すっかり遅くなってしまって、寮長さんに叱られそうだわ。みんなも週始めには、サマーキャンプに行くのでしょ? その準備もしなくてはね」


「あ~、毎年のサマーキャンプ。うざったい! せっかくの夏休みだっていうのに、僕は実家でゆっくりゲームでもして遊んでたいよ」


「夏休みは長いから、ゲーム三昧はもったいないわよ」


「ミムラ先生は知らないんだぁ。僕ら、子どもたちをサマーキャンプに追いやった隙に、親たちがゲーム三昧で遊んでるってこと!」


 悪態をつきながらも、笑いながら後ろをついて来る教え子たち。ミムラは多少眉根を寄せながらも、子どもたちの屈託ない様子にくすりと微笑んでしまった。


 その時だった。ミムラの後ろでスマホをいじっていた生徒の一人が、興奮気味に声をあげたのだ。


「週末の夜に、MTV(Music Television)で”Loreley(ローレライ)2025”のミュージックビデオが流れるんだって! 曲がヒットしてから、初だよ、初っ。歌ってるアーティストも映ってるらしいよ!」


 その声に驚き、後ろを振り向いたミムラは、1ブロックほど先の路地からこちらを伺っている少女と、その後ろに立っている少年の姿に目を瞬かせた。

 二人の姿はつぶさには確認できない。それでも、少年の背丈は少女より少し高く、二人は同じ端正な顔をしている。……そして、際立って印象的な金の瞳と緑の髪。


 同胞の双子の姉弟きょうだいを彼女が見間違えるわけがなかった。



 ジル・ナイトシェイド と アウル・ナイトシェイド


 けれども、アウルがMTVで自分の存在を世間に知らしめるだなんて……そんなことをやってもいいの?



 慌てた様子の女教師に、ジルは小さく手を振ってきた。

 アウルは、ミムラに見られていることに気づくと、姉の背の後ろにすぐさま身を隠した。けれども、彼の方が少し背が高い分、こちらをきまり悪そうに伺っている様子が見て取れて、ミムラは思わず笑ってしまった。


 彼女のかつての教え子(アウル)が、コスモベースの中で、切々と訴えていた言葉が脳裏をよぎる。



 ”だって、星の上を歩きたいんだ。こんな宇宙の空間に浮かんでいるだけの自分が、僕は哀しくてたまらない。僕は、あの青い地球に降り立ってみたい。ミムラ、あなただって、そんな夢を見たことがあるんでしょう?”



 ミムラは、ジルとまだ、その背に隠れているアウルを手招いた。皆と一緒に行きましょうと、目で語りかけながら。


 ジルが言った。


「アウル、行きましょう。 あなたは、この星に降り立って、この星で暮らしたかったのでしょう? 私、知ってるわよ。それがあなたの夢だってことを」



 空には一等星が、まだ、明るく輝いている。

 アウルはジルの問いにこくんと一つ頷くと、囁くような声で伝説のメロディを奏でだした。



 僕は歌う。

 幸せな夢が壊れないように。

 夢が覚めることがないように。


 それが、過去から未来へもたらされる魔歌だとしても

 この地球ほしがここにある限り

 

 ローレライの歌を。

 



*  *  *



 なじかは知らねど心わびて

 昔のつたえはそぞろ身にしむ

 さびしく暮れゆくラインのながれ

 いりひに山々あかくはゆる


 うるわしおとめのいわおに立ちて

 こがねの櫛とり髪のみだれを

 梳きつつくちずさぶ歌の声の

 くすしき魔力ちからたまもまよう


 こぎゆく舟びと歌に憧れ

 岩根もみやらず仰げばやがて

 浪間に沈むるひとも舟も


 くすしき魔歌まがうたうたうローレライ



 *  *


 MTV(Music Television)チャンネルで、|Jill & Owlジルとアウルが歌う”Loreley(ローレライ)2025”のミュージックビデオが、期間限定で放送されたのは、生徒たちが1ワールドトレードセンターを訪れてからちょうど1週間後のことだった。


 ディスプレイの向こうでは、金色の瞳と緑のロングツインテールを持つ少女が、歌いながら軽やかに踊っていた。その隣でキーボードを奏でている少年には照明が当たらず、彼の顔ははっきりとは見えない。だが、主旋律を歌っているのはどうやら彼のようだった。不意に画面に浮かび上がる彼の金色の瞳だけが、なぜか妙に心を引きつけた――特に、10代の少女たちの心を。


「この艶のある声と、謎めいた感じがいいんだよね~、“Loreley(ローレライ)2025”!」

「でもさ、気になるな。ボーカルの彼」

「うん……でも、ジルのコスプレも好きだよ」


スマホの画面から目を離し、ふっと顔を見合わせて笑い合う少女たち。

だがその瞬間、互いの姿に目を見張り、驚きの声を上げた。


「えっ、ええっ!!」


金の瞳に、緑の髪……?

彼女たちの姿が、MVに登場する少女ジルそのものに変わっていたのだ。


「どうして……!?」


 とても信じられない。心臓の鼓動に呼応するように、学校の寄宿舎の窓ガラスが風に揺れ、かたかたと音を立てる。

 目を向けると、そこには自分たちではない“少女”が、ガラス越しにこちらを見つめていた。その瞳には、好奇心とも、何か別の感情ともとれる光が宿っていた。それは、他の宇宙から降り注ぐような不可思議な煌めきだった。


「……嘘、でしょ」


 少女の一人ががたんと席を立ち、夢現で窓へと近づく。

 その瞬間、ガラスの向こうにいた“彼女たち”の姿は、ふっと消えてしまった。そして気づけば、自分たちの姿も元に戻っていた。


「戻った……の?」


まるで、悪い夢でも見ていたかのようだった。

互いの姿をおそるおそる確認し、ほっと息をつく二人。


 部屋の中には、MVの曲――”Loreley(ローレライ)2025”が、小波のように流れ続けている。



 こぎゆく舟人 歌に憧れ

 岩根も見やらず 仰げばやがて

 波間に沈むる ひとも舟も

くすしき魔歌まがうたをうたう、ローレライ



 この夜の北の夜空には、一等星の北極星ポラリスが、凛と輝き、冷たい光を放ち続けていた。



 ローレライ2025 

 【地球編 First-Magnitude Star(一等星)】        

        ~ 完 ~


 




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