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ローレライ2025  作者: RIKO(リコ)
第二部 地球編 First-Magnitude Star(一等星)
11/13

第3話 負の歴史

『あなたたちは広大な宇宙の中の、ほんのひとつの存在なのです』


  そんなことを言われても……ピンとこないや。


 宇宙のことなど、映像だけでしか知らない生徒たちにとって、ミムラの言葉をすべて鵜呑みにするのは難しかった。

 それよりも、今も続いている停電の方が気がかりだった。そんな矢先、摩天楼のビル群が一斉に煌々と光を放ち始めた。止まっていた電源が、復旧したのだ。


 人工の街が再び動き出した時、風が吹き抜けるようなサイレンの音が再び響いてきた。


「見てっ、 向うに見えるビルが燃えてるよ!」


 遠くに見えるビルを指さして、生徒たちが叫ぶ。


 まさか、また、テロっ!?


 かつて、今、彼らがいる1ワールドトレードセンターと同じ場所で起きた同時多発テロを思い出し、ジルは眉をひそめる。

 けれども、脳裏で囁く声が聞こえる。はっと顔を上げると、金の瞳の少女は女教師に向かって言った。

 

「ミムラ、エレベーターが動き出したら、すぐに、みんなを家に帰した方がいいわ! 突然、明かりがついたものだから、あのビルは通電火災を起こしてる」


 ジルたちがいる1ワールドトレードセンターからは離れていたが、川向うのビルから火柱が立つのが見えた。……と、同時に展望台の電気が復活し、停止していたエレベーターが稼働し始めた。


「皆さん、また、停電にならないうちに、早く外に出ましょう!」


 エレベータ―に向かう生徒たちを急かしながら、ミムラは後ろを振り返る。


「ジル、あなたも早……えっ?」



 誰も……いない……?



 かき消されるようにいなくなってしまった、ジル・ナイトシェイド。

 呆然とその場に立ち尽くした女教師の瞳の先には、輝くばかりの摩天楼の夜景が広がるばかりなのだ。


 夜驚症の子どもの鳴き声のように、遠くからサイレンの音が響いてくる。


 ミムラは、気がかりな様子で窓の外に目を向けたが、すぐに安堵の息を一つ吐いた。ビルから上がっていた火柱が、今は白煙に変わっていたからだ。


「ミムラ先生っ、エレベーターが待ってるよ。早く、行こうよ」


 エレベーターに乗り込んだ生徒たちが、彼女を呼んでいる。


 下りのエレベーターに乗り込んだ時、ミムラは、展望台に上ってくる時に、このエレベーター中で見たタイムラプス映像を思い出した。エレベーターの壁全体を液晶画面にして、そこに1500年代~現代までのニューヨークの街並みの変化が映し出しだされていたのだ。


 1500年のこの街の映像には、ただの平原と流れる川しかなかった。やがて、教会や家が建ち、巨大なビル群が姿を現し、NYのビル群は摩天楼と呼ばれるようになった。 

 だが、2001年に同時多発テロが起こり、画面の右端に一際、目立って映っていた巨大なワールドトレードセンタービルの姿はふっつりと消え失せていた。


 慢心と、不信と、不幸の連鎖が呼び起こした暗い歴史。


 あんな悪夢を子供たちに見せることが、二度とありませんように。


 女教師はそう願わずにはいられなかった。


* *


 ミムラと生徒たちが、エレベーターを降りて外へ出た時、停電はすべて解消し、周りの景色は普段と変わらぬ電飾の街に戻っていた。 

 生徒たちが、南東の空を指さし口々に言った。


「あっ、一等星が見えてるよ!」

「あの星のあるところに、天の川があったんだ」

「僕は見た!」

「うん、今は、もう見えないけど、僕らは見たね!」



 ”琴座のベガ、わし座のアルタイル、白鳥座のデネブ”



 夏の大三角形を描いた星たちが、そんな彼らを空の彼方から見つめていた。




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