第7話 憎い人
「これからの話っていうか、これからやるべきことね」
「まだ何も決まっていないからな」
「そ、だからまずはめぐるんの能力の開花が始め。そのために一番憎い人の候補探しだね」
一番憎い人か。聞かれても意外と思いつかないもんだな。うーん、だれだろう。
「ま、きっとすぐ思いつかないだろうから、質問とかしていいよ」
「うーん。そういえばヒスイは能力を二つ使えるよね。それってどうやったらできるようになるんだ?」
「おっ、良いところに眼をつけるねー。私は能力二つだけじゃないけどね。能力ってのは同じ世界に同じ能力は一つしか存在できない。だから、殺して遺伝子を取り込めば使えるようになる。って感じかなー」
「……前の時、変身能力はお母さんのって言ってたけど、もしかして殺したの?」
「そういうことだね。元々病気で苦しんでいたし。遅かれ早かれ死んでたからね」
いくらもうすぐ死ぬからって実の親を平気で殺したヒスイは、何本もネジが外れている。
「って、そんなに距離をとんないでよ。やばいのは今更でしょ? めぐるんも十分他と違うからね?」
「そんなに能力を集めて何がしたいんだ?」
「それはめぐるんの能力が分かってからかな。不用意に話したくないんだよね」
ヒスイは立ち上がってこちらを見る。そして手をこっちに出してきた。
「まあまあ、一旦このくらいにして昼食を食べに行かないかい?」
「良いだろう。……行くか」
「そこで色々話そう」
俺はヒスイの後に続いて外に出る。平日の昼間に学校にいない。悪いことをしているようで、今まで感じたことのない高揚感を味わっていた。
*
俺達は近くで目に入ったファミレスに入った。流石の平日、店内はガラガラだ。すぐ案内されて、席に着く。
「さてさて、お腹すいたね、めぐるん。私はハンバーグセットにしようかな。めぐるんは?」
「……同じので」
「じゃ、頼んじゃうねー」
ヒスイは店員を呼んで注文を済ませた。俺的には飯を食べることではなくて話をするほうが重要だ。
「向こうの世界って言うのはどんな感じなんだ」
「どんな感じかー。私的には天国かな。好きに生きていられるし。それは行ったほうがわかりやすいし、めぐるんの能力をどうやったら引き出せるかだよ。一番は」
「一番憎い人を殺す、だっけか。一番憎い人なんているか?」
「結構意外な人が憎かったりするからね。うーんそうだな。君の場合いじめてきた奴らが憎かったりするんじゃないか?」
「そいつらがいじめて来ることはもう諦めてたから違うと思う。多分」
いじめてきた奴らが憎いか。どうだろう。人間はそんなものだと諦めて割り切ってきた。いや、割り切ろうとしてきた。だから、本当に憎くないかはわからない。彼奴等の顔はすぐ思い浮かぶ。それは憎いからなのだろうか? それとも嫌でも目に入っていたからだろうか?
「いやー、めぐるん悩んでるようだね。ほんとに憎くないかどうかなんてわからなくなっているんじゃないかい?」
「そうだよ。わからないんだ。憎いのかもしれない。憎くないのかもしれない」
「めぐるんはあの日、自殺しようとしていた。それが答えじゃないかい? 彼奴等の思い通りにはなりたくない。自殺して奴らに罪悪感を少しでも遺して復讐しようとしていたんじゃないか?」
なぜ自殺をしようとしていたのか。ほんの少しの前のことなのに理由が思い出せない。ただ、人間は行為に理由がないと納得できない。だからなのか、ヒスイの推測に納得して自分の自殺の理由にしてしまった。
「そうなのかもしれない。だとすると俺は彼奴等のことが憎いのかもしれないな」
「だったら、次の行動まで決まるね。おっ、ちょうど料理も来るみたいだ。続きは食べてからにしよう」