第3話 家
「いつまでもこの屋上にいるのも何だし、家に来ない? めぐるん」
「え、でもヒスイってこっちの世界の住人じゃないって言ってなかった? それなのに家なんてあるの?」
「結構な頻度でここの世界に来るから家くらい持ってるわ」
ふふーんと胸を張っている。そこそこ膨らんでいる双丘が目に入り、そっと目をそらす。
「でも、家なんて行っていいの? ヒスイも一応女の子だし……」
「しっかりと可憐な女の子だし! 一応は余計! 私が家に呼んでるんだから大人しく着いてきなさい」
ヒスイは屋上の扉を開けて、階段を降りていく。俺も慌てて立ち上がって、ヒスイの後を追った。
*
「ヒスイー、まだ着かないのー?」
「男のくせに堪え性が無いのね。あと少し……ってあそこよあそこ」
ヒスイが指差した先には、繁華街に紛れる一つの灰色の五階建てのビルが建っていた。
「あそこが家? で、何階にヒスイの家なんだ?」
「ん? 何言ってるの。あのビル全部私の家よ」
それを聞いて、驚きすぎて言葉が出ない。ヒスイは気にせず、外階段を上がっていき、二階の扉を開けた。
「へー、外は何も装飾のない無骨な感じだったけど、部屋の中は結構物が置いてあることで、って汚部屋じゃねえか!」
「えー、だって片付けるのめんどくさいんだってー。部屋もいっぱいあるし。もの置ける部屋が無くなったら、片付けるのを考えるって感じかなー」
弁当の容器、ペットボトル、などなど多様なゴミが部屋内を占拠している。足の踏み場は、……ギリ無い。いくらなんでも汚すぎる。
「もしかして俺を家に呼んだの、これを片付けさせるためか?」
「そうそう、……じゃなくてちゃんと違う理由だから! その辺の好きなところに座って」
「こんなところに座れるかよっ! まずは片付けだな。ゴミ袋はどこにある」
「え、そんなものないけど」
「じゃあゴミ箱は」
「無い」
「いったいどこにゴミ捨ててんだ?」
「その辺」
はああ、思わずため息が漏れる。こいつは生活能力が無いのか? 仕方ないが兎にも角にも片付けをしないと。
「とりあえずゴミ袋買ってこい。コンビニにでも売ってるだろ。行って来い」
「上から目線で嫌になっちゃうなー。はいはい、買ってきますよーっと。あ、でも片付けるとか言って、色々漁っちゃだめよ? 私がいくら可愛い女の子だって」
「漁らねえよ! さっさとコンビニ行って来い!」
べー、っと舌を出してからヒスイは出かけていった。うざい。
まあ、俺はこのひどい惨状の部屋を少しでもまとめることにしよう。