第26話 理由
「まあここまで来れば、はあ、平気かな」
息も絶え絶えにヒスイは言う。先程までの景色となんら変わらないようだけど、少し空気が冷たくなった気がする。
「ヒスイっていつもこうなの?」
「なにが?」
「見つかったらこうやって逃げるのかってこと」
「うーん、まあいつもこうかな。能力使うのも面倒くさいし」
息を整えながらヒスイは言った。
「でも、そもそもなんでこんなに追われてるの」
「それは、まあ。いろいろね」
面倒くさそうに呟く。ヒスイは何かまずいことでもしているのだろうか? ヒスイならしていてもおかしくなさそうだが。
「いろいろって。隠さなくてもいいんじゃない?」
「うーん、まあいっか。私って色んな人を殺して能力を得てるっていうのは確か前に言ったじゃん? それで怨みをそこそこっていうか結構持たれてるわけよ」
「あー、そういうことね、納得。でもなんで言い渋ってたわけ?」
「本当はもっとごちゃごちゃしてる話で、全部話すのは面倒だからね」
実にヒスイらしい。ただ、面倒事が嫌いなのに自分から面倒事を起こすのはなぜだろう。……いや、起こすだけじゃなくて巻き込まれてるとかもありそうだな。真実は神のみぞ知るってところか。
「じゃあそのうち詳しく聞くとするよ。で、もう大丈夫なのか?」
「たぶんね。こっちに戻ってきて早々厄介に巻き込まれたよ」
「本当だよ全く。これからどうするとか予定あるわけ?」
「色々見て回るつもりだったけど、追われながらなのもなー。こうやって逃げることになるのでもいいっていうのなら、いろいろ見て回るつもりだけどどうする?」
「追いかけられたっていい。ヒスイが過ごしてきた場所に興味があるからな」
本心からそう思った。ヒスイという人を理解するには、その周りから知る必要がある、いや知りたい。だから、それを邪魔してくるものなんて些細なことに過ぎない。
「めぐるんがそう言うのなら、色々周るとしよう。ちゃんと着いてきてよね?」
「ああ。ヒスイがどんな速度で走ろうとも着いて行く」
ヒスイは満足したように大きく頷いて
「さて、じゃあ行くとしようか」




