第25話 最悪の遭遇
人気のない道。人の姿なんて一つも見えないのに、やけに小綺麗な通りだ。
「人の姿が見えないけどなんで?」
「みんな自由に生きてるからね。それにこの辺りに住み着いている人なんてほとんどいないよ」
「この辺りは?」
「もっと違うところのコミュニティに人は集まっているよ。いくら自由って言っても、人間の性なんだかわからないけど、集団を作っているよ。私はどこにも属してないけどねー」
どこまでいっても人は人ということだろう。もっとこの世界の住民は自由に、秩序なんてなく生活しているものだと思っていた。ただ、こうも人の気配がないと本当に人がいるのか疑問になる。
「そろそろ街の方に出るよ」
寂れたシャッター街を抜けると、人で賑わう大通りに出た。どこもかしこも人がいる。ただ、元の世界と何ら違うところは見えない。
「なんか、意外と何も変わらないんだね。世界が変わっても人っていうのは」
「この世界ができた当初はもっと荒れていたらしいけど。やっぱり、安全な安定した場所がいいんだよ」
「もっと殺伐した場所かと思ってたよ。なんだか肩の力が抜けた気がする」
「私がよく行ってるバーにでもめぐるんに紹介しようかな。向こうにあるんだよね」
わかった、と言ってさっきと変わらずヒスイの後を追う。人混みにおいていかれないように。
*
しばらく歩いて気づいたことがある。同じような見た目の建物が塊になっている場所が何個もある。
「ヒスイ、ああいうあの建物の集団は何?」
「あれは、さっき言った各コミュニティの中心地だよ。大体ああやってまとまってあるんだ。わかりやすくていいよね」
「ヒスイはコミュニティに入っていないからあんな外れた場所に住んでいるってこと?」
「理由はそれだけじゃないけど大体はそういうことだね。私はどうしてもあの集団には馴染めないね」
そういうものなんか。ヒスイの感じだと、どこでも馴染めそうな気がするのに。やはりまだヒスイについてよくわからない。
「ヒスイは昔から」
「おいっ! ヒスイがいるぞ!」
人混みの中から、わらわらと人が出てきた。なんだろう、ヒスイの知り合いかなにかか?
「はあ、全く。最悪だよ」
知り合いではなさそうなのはわかった。
「この人たちは?」
「私を捕獲しようとしている人だと思うよ。少し前にやらかして目をつけられるようになったんだよね。どこのコミュニティの奴らかは知らないけど」
「ヒスイ、どうする?」
「全員を倒すのは面倒くさいし……、よし逃げよう」
「逃げる? どこに」
「とにかく私のあとに付いてきて!」
そう言って、ヒスイは人の隙間を縫って走っていく。おい待て! という声を聞きながら、俺もおいていかれないように走り始めた。




