第24話 異世界
「いやあ、ようやく笑いが収まったよ。さてさて、めぐるんお待ちかねの異世界に行こうじゃない」
「ようやく、って感じだな。異世界ってどんな感じなんだ?」
「それは行ってからのお楽しみということで。準備は、……まあ大丈夫か。どうせ向こうに色々置いてあるし」
「前言ってた家か?」
「そうそう。それじゃ行くよ」
ヒスイは扉を押し開ける。赤にも黒にも似た光が漏れ出て、禍々しい感じがする。この先に進めばもう一つの世界が待っている。
*
「って、え?」
心を構えて入ったものの、そこは家の中だった。でも、ここが元居た場所じゃないのはわかる。家具の配置や壁紙の色、何もかもが違ったからだ。ただ、異世界に来た感じは全くしない。
「ヒスイ、ここ本当に異世界なんだよな」
「そうだよ、もう向こうの世界に来たよ。それでここが私の家。なかなかいいでしょ」
「確かにいいと思うけど。なんか別世界に来たって感じはしないかな」
異世界というのは案外、元の世界と変わらないのだろうか。
「それもそうだね。じゃあちょっと散歩しようか」
ヒスイは階段を降りていく。後ろを振り返ってみると、通ってきたドアはなくなっていた。ヒスイの姿が見えなくなった頃、僕は慌てて駆け下りていった。
「ヒスイ、さっき通ってきたドアがなくなっていたんだけど」
「ああそれね。無理矢理作ったものだから、ずっと見える状態じゃないんだよ。でも、必要な時はしっかりと使えるから安心して」
そういうもんなんだ、と納得して玄関まで行く。
「さあとうとうこの世界とご対面だね、めぐるん。心の準備はできた?」
「ああ、大丈夫だ」
ヒスイはドアノブをぐっと押して、扉を開ける。その瞬間、隙間から風が入り込んでくる。開いた扉から外に出ると、そこは元の世界と全く違った。
「赤い……」
空は絵の具で塗ったかのような、真っ赤だった。
「私としては向こうの世界の空が青いことに驚いたけどね」
ヒスイの説明を聞きながら、何かこの世界の違和感を感じた。何かが足りない気がする。
……暑さがない? 光が足りない?
そんな気がして空を見回す。すると明らかな違いがある。太陽ではなく、月に似た何かが浮かんでいる。
「ヒスイ、空に浮かぶあれって」
「ああ、あれのこと? みんな『ツキ』って呼んでるよ。この世界は夜がなくて、ずっとあそこにツキが輝いているんだ」
「時間がなかなかわからないんだね」
「時間なんてこの世界じゃ気にしないよ。みんなが自由に生きてる世界だから」
時間のない自由な世界。それは何だか疲れてしまいそうな気がする。他にも何かないかとキョロキョロと周りを見渡す。
「まあまあめぐるん。私が色々教えてあげよう。少し遠くまで歩こう、ね?」




