第23話 扉
半分開いたカーテンから覗く空はまだ暗い。あいつと話すことができたが途中で起きてしまった。もう少しあいつと話していたかったが仕方ないだろう。また夜に話すことができるだろう。
ただ、ヒスイに気をつけろというのはどういうことだ。ヒスイになにかされたことがあったのか? なにかされたとしたらいつだ?
――じゃあ魔法をかけるよ。
記憶の限り思い出せるのは、初めて生き物を殺したとき。あの時ヒスイは俺に魔法をかけると言った。あれのお陰で恐怖がなくなった。魔法というのが何なのかわからないがそれだろうか? 何もわからない。ヒスイに聞けばわかるのかもしれない。少し空が紫に変わり始めていたが、もう一眠りをすることにした。
*
「めぐるんー? あ、やっと起きた」
「ヒスイか? 今何時だ?」
「もう十二時過ぎたよー。ていうかさ、そろそろ向こうの世界に行ってみない?」
「え? 行けないって言ってなかった?」
いつかヒスイは俺を連れて向こうの世界に行けないと言っていたはず。混乱してくる。
「それはめぐるんが無能力者だったからだよ」
「あー、それなら納得。で、どうやって行くの」
「本当ならゲートを探し回らなきゃなんだけど、なんせここには破壊者と創造者がいるからね」
創造者、と聞いてなんだかいい気分だ。
「それだとして、どうやって?」
「私が向こうの世界とこの世界の境界を破壊するから、めぐるんがその隙間に扉を創ってくれればいいんだよ」
向こうの世界との境界ってどこにあるんだか。これを探すのに時間がかかる気がする。
「境界ってどこにあるんだよ」
「そりゃあこの辺、いや、この地球全部かな」
「そんなことあるかよ。すぐ異世界があるなんて」
「それがあるんだよね。だってさ、例えば死後の世界なんてある意味異世界なわけだけど、よく死んだ人がすぐ近くにいるとかいうじゃん。そんな感じ」
そんな感じなのか? なんかまた違うような気もするが、まあそういうことにしておこう。
「じゃあ早く境界を壊してくれよ」
「まあまあ、そんな焦らないで。創る場所も大事だからね、ね?」
確かに創る場所は大事か。ヒスイは下に降りていく。俺もそれにつられて降りていく。そして、ヒスイは場所の選定を始めた。
「創る場所が重要って言ったってそこまで悩まなくてもいいんじゃないか」
「いいや、大事なの! うーん、ここかな。じゃあ始めるよ、めぐるん」
ヒスイは手の先から赤い光が出てきて空間を切り取る。
「めぐるん、そこに扉を創って!」
指示され、集中をして扉のイメージを固める。そして目を閉じて強く念じ続けた。少し経った後、なにやら笑い声が聞こえてきた。目を開けると、何の変哲もない木の扉の横で笑っているヒスイがいた。
「なんで笑ってるの」
「えー? だってこういうのって、大体厨二病全開の扉が出てくるかなって思っていたのに普通の扉だったんだもん。なんかめぐるんらしい」
そんなことかよ。厨二病は通って来なかったからそういうのはよくわからない。扉を見る。……うん、この部屋に違和感ない。だったらいいだろう。あとはこの笑い続けているヒスイを、どう処理しようか。




