第22話 忠告
「大丈夫? めぐるん。何か深く考えてるみたいだけど」
その言葉で一気に現実に意識が戻される。心配そうに見ているヒスイの姿が写った。
「うん、大丈夫。ちょっと考えすぎて」
「考えるのもいいけどさー、せっかく能力がついたんだから、今日は何も考えなくてよくない?」
「そうかもしれないけど……。うん、だけどそうか。今は考えないでおく」
「そうそう。めぐるんは考えすぎなんだよ」
考えすぎ、か。確かにそうかもしれない。だけど、考えなければならないことが山のようにある。でも夜、夢の中であいつに会えればほとんど解決するか。だったら、ヒスイの言うとおり今は一旦考えないでいよう。
俺とヒスイは祝勝会? 的なパーティーをしながら夜を迎えた。
*
窓の外に三日月がひっそりと覗いているヒスイの家の中、床には菓子の袋や何本もの空の瓶が転がっている。酒瓶ではない、ヒスイがどこからか持ち出してきたシャンメリーである。だというのに、まるで酒に酔ったかのようにヒスイがソファに伸びている。まさか酒だったりするのか? 近くに転がっている瓶のラベルを見てみても、アルコールは入っていない。
……こいつ、雰囲気で酔ってるな。寝てるし。
ヒスイの寝室に入るのもなんだか申し訳ないし、ここで寝てもらうか。仕方ない。確か毛布か何かがこの部屋にあったはず。この部屋の片づけは……、明日でいいか。俺も寝るとしよう。仕舞ってある毛布を気持ちよさそうに寝ているヒスイにかけて、自分の寝室に行って布団に潜り込んだ。
*
「よう。また会ったな」
目の前のもう一人の『俺』が話しかけてくる。今日も会えて良かった。これでもしかしたら何かわかるかもしれない。
お前は俺の良心だと言っていたがどういうことなんだ?
「少しは自分で考えろ、とでも言いたいがせっかくだから教えてやるよ。お前は今までずっと、自分の違和感とか辛いと思ったことを全て気のせいにして諦めてきただろ? それは自分の良心を殺すようなもんなんだよ。ずーっと意識の底に押し付けてきたから、そのうちに『俺』ができたってわけ」
俺がそんな良心を殺すようなことしたか? 色々なことに今までしっかりと向き合ってきたはずだ。
「まさか気づいてないのか? どれだけ諦めてきたと思っているんだ?」
――俺はもう諦めてたんだ。何やられても人間そんなもんなんだって割り切っていた。
――外での視線が少々、いやだいぶ痛かった。まあ、何度言っても離さなかったから諦めていたが。
――いや、死んだ人のことをどう言っても何も変わらない。諦めよう。
諦めてきた過去が頭の中に映し出される。頭が痛くなってくる。
いや、諦めてきたかもしれないが良心は殺してないんだ。
「そうか、まだ否定するか。だけどな、……まあいい。最後にただ一つ。ヒスイから離れろ。今ならまだ間に合う」
ヒスイから離れる? それは無理だ。恩人みたいなもんなんだ。
「お前はただヒスイにいいように使われてるだけだ。今のうちに離れろ」
いや、離れない。俺だって自分で考えることくらいできる。
「わからねえ奴だなっ、……って俺の本体だもんな。わからなくもない。今回は諦める。ただ、気をつけるだけはしておけ。俺からの忠告だ」
そこで俺の意識が途切れた。




