第20話 あの日
飛び降りかナイフか。おそらく自分は飛び降りのほうが似合うだろう。そう思って、屋上に来た。風が気持ちいい。端まで歩いていく。まるでヒスイと出会ったあの日みたいだ。今度は止めてくれる人はいない。でも、いいんだ。自分で選んで、決めたこと。下を覗き込む。学校より高いからだろう。地面が遠く見える気がする。
自殺を一度引き止められ、人生を変えられると言われ人を殺し、何も起きず結局自殺する。色々逃げて諦めてきた奴にはお似合いの結末だろう。フッ、と力が抜けて身体が空に投げ出される。
ああ、風が気持ちいい。
*
――ヒスイ視点
めぐるん死んじゃうのか。でもこれは、めぐるん自身が決めたことだから私からは何も言えない。パパもママも死んじゃってるから、最後の家族はめぐるんだけだった。家族と分かってからすぐのお別れ。悲しいな。今までこんなこと感じたことがなかった。めぐるんのことなんて、今までと同じただの道具だと思っていた。なのになんでだろう。
「死んでほしくなかったな」
ポツリと漏らす。そろそろめぐるんが飛び降りる頃だろうか。しっかりと見届けるって言ったし、見届けないと。私は外に出る。
屋上の縁に人影が見える。めぐるんだろう。そして、身体が空を背に落ちて、地面に叩きつけられる。遅れて血が漏れ出してくる。私は急いで駆け寄って、めぐるんの手を握りしめる。まだ温かい。最後の体温を感じながら、ヒスイは泣いていた。
*
「めぐるんの身体は消したくないし、血だけ消して身体は部屋に入れよう」
私は能力を使って、めぐるんを綺麗にして部屋に連れ入れる。そして私の定位置のソファに横たわらせる。めぐるんの顔はどことなく満足そうな様子だ。これ以上私にできることは無いだろう。なにか思いつくまでそのままにしよう。ぐしゃぐしゃになった顔を隠すようにまだ日が傾いたばかりだが、今めぐるんがいる隣の部屋の私のベッドに潜り込んだ。そして、そのまま寝てしまった。
*
――巡琉視点
「――おい、おい!」
ん? 声が聞こえる。目を開けると自分がいた。またあの夢のやつか? それより俺は飛び降りて死んだはずじゃ?
「死んだはずなのに、って思ってるよな。俺も驚きだぜ。確かにお前は一回死んだ」
ならなんでこうやって夢になっているんだ? 黄泉の国に行く前の何かか?
「お前の能力、『創造』だよ。お前が死んだ直後能力が開花、フルオートで心臓やらが再構築されて生き返ったってわけ。全くの幸運だ」
能力の開花? なんで今起きて
「それはお前、心当たりしか無いはずだ。本当に憎い相手ってのが誰なのか」
俺が死んで、能力の開花。自殺で開花。……つまり自分が一番憎かった?
「理由は己に聞いてみろ。そろそろ身体も完全回復するはずだ」
おい! お前は誰なんだ。
「俺か? 俺はな、お前の良心だよ」