第19話 選択
「世界を変える? そのために能力が必要なのか?」
「そう。いろんな人のを集めてきたよ。どのくらい集めてきたかせっかくだから見せてあげよう」
ヒスイは扉を出て、手招きをする。俺は従って、ヒスイに続いて階段を上がっていく。そして、最上階の五階につく。確か前のとき、五階には入らないでと言っていた。どんな重大なことが隠されているんだ?
ヒスイに連れられるまま、部屋に入る。ずっと使われていないのか埃っぽい。中は物が多く置かれている。よく見ると男物しかない。それもばらばらだ。スポーツ用品だったりブランド品。本だったりケーブル。一貫性がない。まるで何人もいるみたいだ。
「ヒスイ。この周りにあるものって」
「ああ、それかい。いままで私が見つけてきた人の私物だよ」
「その人達ってもちろん」
「全員殺したよ。一番欲しい能力じゃなくとも希少な能力がほとんどだからね」
いったいヒスイはどのくらいの人を殺したのだろうか。殺すことに何も思わなかったのだろうか。俺の何倍も殺しを行ったヒスイはどのくらいの罪があるのだろう。ヒスイは一冊の本を出して渡してきた。
「これは?」
「今までの人と能力のまとめ。ここに全部の人が載ってる」
開くと写真とともに名前と能力名らしきものが書かれていた。一ページに一人。本の厚さ的に十何人ものことが載っているのであろう。
「こんなに人を殺しているが罪悪感は無いのか?」
「私としては殺したとは思っていないよ。ただ私の一部となっただけ」
やはりヒスイは普通の人じゃない。ただ、なぜだかもう怖いとは思わない。
「俺が能力を使えるようになったら、殺すのか?」
「殺さないよ。めぐるんは多分創造の能力を持ってる。私一人にそれを使いこなすことは無理。だからね。あと、お兄ちゃんだし」
「……母親のことは殺したのに?」
「あれは、もうすぐ死ぬことが確定していたし、頼まれたからね」
「そうか」
能力を使いこなせないから殺さないというのはヒスイらしい合理的な答えだ。でも、兄だから殺さないというのはヒスイらしくないというか、違和感を覚える。裏切られたような気分だ。ここで殺すと断言してくれたほうが良かった。日が部屋を照らしている。
「なあヒスイ」
「ん? どうしためぐるん」
「最近、俺疲れることばっかなんだよ。母さんは父さんを殺していて、ヒスイは俺の妹。人も殺した。もう疲れたんだ。疲れたんだよ」
「それで?」
「人生変えるとか、もうどうでもいい。死のうと思う」
本心だった。直近でいろいろな真実が判明した。この世界は予想外のことしか起こさない。世界を変えるなんてどうでもいい。あの日、引き止めてくれたヒスイには悪いが死んでしまいたい。
「君はその選択で良いのかい?」
「いい」
「だったらしょうがないな。私は引き止めないよ。そうだな。ここの屋上から飛んでも充分逝けると思う。ナイフで刺したっていいし好きにしな。ちゃんと見届けてあげる。妹としても共犯者としてもね」