第17話 夢
ヒスイが娘? どういうことだ。俺は一人っ子のはず。訳がわからない。何か書いてないかと、また過去の日記を読み続ける。いつから書いてるのかと気になり、一番昔の物まで遡る。
見つかったのは俺の誕生日の一週間後ほどの日付だった。
”9月28日、憎かった夫を殺した。気分がとってもいいわ。”
は? 父親が死んだのは事故じゃないのか。母さんが殺したってどういうことだよ。わからないことが増えていく。
”9月29日、謎のゲートが出てきた。入ってみたら、そこは日本、というか地球じゃなかったわ。空は赤いけど綺麗。”
”9月30日、私って特別な人間のよう。変身できる能力を持ってるみたい。それに、新しい夫候補も見つかったわ”
この後は一気に日付が飛んでいる。母さんは異世界に行っていたのか? 変身する能力、確かヒスイのお母さんもその能力って言ってたはずだよな。もしかして。
”12月17日、あの人は私の想いに応えてくれた。子どもが楽しみ。”
そしてまた、日付は飛ぶ。
”8月21日、娘が生まれた。名前はヒスイ。これから大切に育てていこう。”
ああ、予感は当たっていた。ヒスイは俺の母さんの娘。おそらくではなく確実だろうが、俺とヒスイは異父兄妹なんだ。母さんはなんで俺には話してくんなかったんだ。
……いや、死んだ人のことをどう言っても何も変わらない。諦めよう。
どこか胸がチクッとしたが、気のせいにした。いつもと同じように。
ああ。一日で処理しきれないほどの情報があってもう無理だ。今日は寝よう。電源を落として、自分の部屋に戻る。そしてベッドに潜り込む。一日疲れていたようですぐ意識は落ちた。
*
――なあ、おい
声が聞こえてくる。目を開けると、そこは殺風景な草原。そして前に俺がいる。なんで俺が二人? 最近はおかしなことしか起きていない。
「なあ、お前。人を殺したってのに随分平気そうな顔してるな」
目の前の俺が話しかけてくる。殺しをしたのに平気そうな顔してるって、そんなわけないだろ。人を殺したことに罪悪感を感じているの決まっている。
「それ、嘘だろ。お前はこれっぽっちも罪悪感を感じてねえよ。それどころかそのうち罪が無くなるとか考えてるだろ?」
うるさい。俺の入ってきてほしくないところにずかずかと入ってくる。俺の見た目してるだけあって、思考も同じなんだろう。
「お前の人殺しの罪は一生憑いてまわるんだよ。呪いと一緒だ」
黙れ。それよりお前は誰なんだ。何なんだ。
「俺か? 俺はお前の――だよ」
*
その瞬間俺は飛び起きた。嫌な汗をかいている。今のは夢か? 肝心な最後が聞き取れなかった。あいつはなんだ。もう一度その夢を見るのが怖くて、なかなか眠りにつけないまま日が昇ってしまった。