第16話 帰宅
ヒスイの家を飛び出して、俺は自分の家に戻った。他に帰るあてもない。ヒスイにも言った通り両親は死んでいて一人暮らしだ。父親は俺が生まれた頃に事故で死んだらしくて、母親は中学生になる頃に行方をくらませた。ほとんど死んだと言っていいだろう。
俺は親が買った一戸建ての扉を開ける。何日か帰ってなかっただけだが、懐かしいような感じがする。玄関を上がって自分の部屋に行く。
「やっぱ自分の部屋が一番落ち着く所あるよな。って、これ母さんの部屋から持ってきた本戻してないじゃん」
机には母さんが持っていた小説が置きっぱなしになっていた。戻しに行ってこよう。
部屋は両親が家に居た頃のままだ。整理もしていない。最低限の掃除はしているが。だから、私物はこうやって借りては戻している。
「ここに戻して、これでいいな。って、あっ」
本棚の下の方に本を戻して立ち上がる時、隣りにあった机に思いっきり肩をぶつけてしまった。そして、パリンと嫌な音がした。
「もしかしてじゃなくてもそうだよな」
ガラスの写真ケースが落ちていた。今までぶつかったこと無いのにこんなことになるなんて。
「片付けないとだよなー。ってなんだこれ」
写真ケースの残骸の中から黒い、SDカードが出てきた。こんなところにこれを隠すって、なんか重要なことでも書いてあるのか? 気になった俺は、片付けは後にして中身を見ることを優先する。自前のパソコンはヒスイのところに持っていってしまったから母さんのパソコンを使おう。だいぶ使ってないけどなんとかなるだろう。
コンセントを繋いで立ち上げようとするが、充電切れで立ち上がらない。それはそうか。点くまでに飯を済ませるか。冷蔵庫には何もないからカップラーメンにしよう。
*
「おっ、ついたついた」
パソコンの充電がたまり、電源がつく。これでようやく使える。SDカードをパソコンに挿す。そして、出てきたフォルダを開く。
「『日記』って書いてあるな。これが隠すようなものなのか?」
クリックをして開く。日付ごとにファイルが並んでいる。一番上にある日付は母さんが失踪した日付だった。ここに失踪した理由があるんじゃないかと思って開く。
”7月23日、病気の悪化が止まらない。そろそろ死んでしまうだろう。約束を果たしにあの子に会いに行こう。”
あの子? 母さんは誰と約束をしていたんだ。その人と会うために失踪した? まだわからないことが多すぎる。少しずつ過去の日記を見ていく。衝撃的なことは、母さんが難病に罹って、初めて症状が進行した、俺が小学三年生だった辺りの日付にあった。
”5月16日、娘のヒスイに会って、死にそうになったら殺してもらうことを約束した。”




