第14話 運命の刻
あれから三日間くらい、ヒスイが出した課題を毎日こなした。おかげで、もう血を見ることは怖くなくなった。殺すことも怖くなくなった。生き物に刃物を入れることに何の抵抗も感情もない。一見すれば殺戮マシーンと大差はそこまで無いのだろう。短期間にして、ありえないほどの進化を遂げた。犬や猫といった愛玩動物を処理した後、ヒスイは
「そろそろ潮時かな。明日実行に移そう。君ならもう十分にできるさ」
「これで能力が開花するのか」
「まあ、利琥が本当に一番憎い相手かはわからないから確実に、とは言えないけどやってみる価値は大アリだね」
「なら実行しよう」
「おーけー。実行時間は明日の六時ごろ、奴が帰って来る時間で一人きりになる時間だ。下見もしてカメラとかがないのは確認済みだ」
「安心してできるってことだな」
「そうさ。明日が君の誕生日になるかもしれないと考えるとわくわくするものがあるね」
「誕生日?」
「能力が開いて私達と同じ世界の人間になる重要な日、誕生日だね」
明日が誕生日になるかもしれない。そう言われて俺もなんだかわくわくしてきた。無事に終わらせて、人生を変えよう。
「それじゃ、今日は早めに寝な。明日は大仕事になるからさ」
「それじゃあ」
ヒスイと別れて部屋のベッドで眠る。
*
「さて、目標はあと少しでここを通るはず。私が合図したらこのスタンガンを使って気絶させて、トドメを刺して」
人の手を使って気絶させるのは不確定要素が多いとして、簡単なスタンガンを使うことになった。それで気絶させた後、ナイフでトドメを入れる形で落ち着いた。肋骨を縫って心臓に刺すのにはだいぶ慣れて、しっかりと確認をして刺せばできる。
「さあ、そろそろ時間だ。運命の時だね。って、姿が見えた。あと少しでここを通り抜ける。さあ、あと少しあと少し。今行って」
すっと動いて後ろからスタンガンを当てて気絶させる。そして、担いでヒスイの下まで戻る。
「ナイスだめぐるん。これナイフ」
ヒスイから使い慣れたナイフを受け取って、利琥の胸の辺りを探って肋骨の隙間を見つける。そして、一気に差し込む。ここまでに何の抵抗もない。いつもの練習と何ら変わらなく感じる。
「これで死んだか?」
「たぶんね。死んでたら消すのが楽になってるからそれでわかるよ。っとすぐ消せそうだ。確実にこれは死んでるね。やったね。後はゆっくり家で話そう」
利琥は死んだのか。なんだかあっさりだ。人というのはこんなに簡単に死ぬものなんだとしみじみと感じてしまう。ヒスイは能力を使って利琥の体が消す。少し利琥の体が光った後、跡形もなく消え失せた。なんだろう。殺したというのに実感がない。死体が目の前から無くなったからだろうか。
「めぐるん。助けて」
ヒスイを見ると地面に座り込んでいた。
「この短時間で何があった」
「能力使って体力使いすぎた。歩けない。おぶってよ」
「……わかった」
「あれ、今日はやけに素直だね。とうとう私に惚れちゃった?」
「ここまで手伝ってもらったからな。体力無くなったのも俺の殺害をばれなくするためだし」
これは本音だった。自分のためにここまでしてくれた人は初めてだ。だからなのだろう。恩を返したいというのだろうか。自分でもよくわからないが、体の動くままヒスイを背負う。
「めぐるんの背中大きいー」
「うるさい」
「優しくないなー。もしかしてツンデレ?」
「そんなんじゃない。これ以上なにか言うと落とすぞ」
「はいはいわかりましたよーっ」
俺達は人を殺した後とは思えないほどのテンション感で帰り道を歩いた。いつの間にか日が沈んで星が輝き始めていた。