第13話 初めて
「それじゃあ、めぐるん。こっち向いてそこに寝転がって」
指示されたとおりにゴミのまだない床に寝転がる。
「そのまま目を瞑って、吸ってー、吐いてー。力をどんどん抜いてってー」
深呼吸を繰り返していくうちに、力がどんどん抜けていく感じがする。
「じゃあ魔法をかけるよ。…………よしっ。これで殺すことにためらいがなくなるはず。これでやってみて」
体が少しあたたかくなったよう。立ち上がって、もう一度ネズミを掴んで刃物を近づける。不思議と恐怖、抵抗は感じない。ただ、血を見るのはなんか嫌なので目を瞑る。
「めぐるん、目は瞑らないで、……ってまあ初めてだからいいか。そのままやっちゃえ」
「ああ」
首に刃を当ててから、ゆっくり持ち上げて一気に落とす。スッと刃が入って、硬いものに当たる。抑える手に血が流れる。ネズミが激しく抵抗する。この硬いのはおそらく首の骨だろう。力を込めて切ろうとする。だがなかなか切れない。渾身の力を込めて、首を切り取る。ゴリッと音がして、机まで一気に刃が通った。ネズミはもう抵抗してこない。濃い鉄の生臭い匂いがしてくる。嫌な匂いだ。目を開けると赤く濡れた手、首の切り取られたネズミ。思わずまた目を瞑ってしまう。
「まだ刺激が強かったか。ちょっと待って」
ヒスイが言ったそのすぐ後、手から物ある感覚が無くなる。目を開けてみると、切ったはずのネズミが、無い。それどころか血も全て無くなっている。肌色の手がそこにはあった。
「さっきのネズミは……」
「私の能力で消したんだよ。跡形もなくね」
前に聞かされていたが、ここまでしっかり消せるもんなのか。消すのは大変だとか言っていたはずだが、なんら難しくなさそうにやってのけている。ヒスイはいつでも俺のことも消すことができるということだ。ああ、従順でいたほうが身のためだな。
「消すの難しいって言ってなかったか」
「大きな物、それこそ人とかを消すのはそりゃ時間もかかるし体力も使う。でもこのくらい小さいものなら簡単なの」
「そうなのか」
「そうそう。それよりもめぐるん、ちゃんと殺せたね。あと少しで人も殺せるようになるよ」
そうだ。人を殺すことが最終目標なんだ。ここで止まっている場合じゃない。
「じゃあ今日はもう終わりね。明日もおんなじことやろう。今度は目を開けて、ね」
そう約束して解散した。確実な進歩を感じている。これで人生を拓くんだ。決意をして部屋に戻る。そして、また本を開けて、読み始めた。