第12話 練習
コンビニに行って、適当なものを買って食べる。帰るまでの間ずっとヒスイが腕を絡めていて、外での視線が少々、いやだいぶ痛かった。まあ、何度言っても離さなかったから諦めていたが。帰ると早々、
「じゃあ今日も殺しの練習をしよう!」
「今日も彫刻壊すのか?」
「そーだなー、今日はまだ二日目だからそうしようかね。動向掴むのに後最低三日、なるべく早く行動起こしたいから目標は四日後までにしよう」
「おーけー、それまでに殺せるようにならないとな」
「おっ、やる気だねー。じゃあ明日は段階一つ上げよう。今日のノルマは五個ね」
彫刻を五つ部屋に置いて、ヒスイは出ていった。さて、やるか。昨日より全然壊すことへの抵抗が無くなっていた。
*
「だいぶ壊すコツが掴めてきたな」
あった彫刻は全て壊されていた。見るも無惨な姿になっている。
「おー、だいぶ慣れてきたかな。順調順調。これならすぐあの憎い利琥を殺せるね」
「今日はもう終わりか?」
「そうだね、終わりにしよう。ただ、実際の人を殺すとなると刺す場所が大事だ。ということでどこに刺せばいいか書いてある本を持ってくるからそれでも読んでくれ。めぐるんならすぐ理解できるよ。ちょっと待ってて」
ヒスイは小走りで階段を駆け上がっていった。そして少しして、そこそこ分厚い本を手にして帰ってきた。
「それが殺しの本?」
「簡潔に言えばね。どこに刺せば良いのか、どんな風に刺すのか、どのくらいの深さまで刺すのか、諸々ここに載っているよ。初心者には十分な量だね」
「残りの時間はそれ読むことにする」
「んじゃ、これで今日は解散ということで。お互い好きにしましょ」
気づいたらもう日が傾いていた。夜はもう食べなくて良い。食べる気分にならないからだ。眠くなるまでこの本を読み耽けるとしよう。
*
「めぐるん起きてるー? って今日は起きてたか。というよりもしかして寝てない?」
ヒスイの言う通りで寝ず、ずっと本を読んでいた。寝ていないのに頭が冴えているように感じる。
「眠くなんなくて寝てない。よく分かったな」
「まあねー。私、人を観察するのが得意なんだよねー。それで、殺す時どこ刺せばいいとか分かった?」
「まあ、大体はばっちりだな。気絶させてから心臓をゆっくり刺せば確実か」
「そうそう。一つの方法だね。初心者に心臓刺すのは難しいけど出血が一番少ないから、一番いいんだけどねー」
「だったらその心臓刺す練習させてくれ」
「やる気があるねー。私嬉しいよ。そうだね。心臓刺す練習も同時進行しよう。あと今日は段階をだいぶ上げて生き物を殺そう」
ヒスイは扉を開けて奥の部屋に入っていった。そして、一つのケージを持ってきた。中を見ると一匹のネズミがいる。
「これを殺すのか?」
「そうだよ。今の状態のめぐるんに殺せるか微妙だけど、殺せなそうなときは手伝ってあげる。いつものナイフでやってみて」
とりあえず、ケージの中のネズミを手で捕まえて、どうやって殺すか考える。このまま刺すと間違って自分の手を刺してしまうかもしれない。なら、机に押し付けてナイフを刺そう。そう思い、ネズミを机に押し付ける。そして、ナイフを持って、首を切ろうとする。
……ができない。手が動かない。手の中で逃げようと動く感覚、こちらを見つめてくる円らな瞳、生き物特有の体温、匂い。これらを感じ取ってしまうとためらいが生じてしまう。決意できず、手の中の生き物をケージに戻す。
「ヒスイ。まだ生きているものを殺すことをためらってしまう」
「だったら手伝ってあげよう。その前に一つ。君は本当に能力を開放して新たな世界、人生を歩みたいかい? そのために人を殺せるかい?」
「……ああ、これも試練。人生逃げてきたやつの最後の挽回のチャンスだと思う。そのためなら、人をも殺せる。だから、手伝いをしてくれ」
「その意気をしっかりと受け止めたよ。君のために最後まで手伝ってあげよう」




