6話
出発して1週間後、俺たちはオール村に到着した。
村に入ると、想像以上に荒れ果てていた。
道には雑草が生い茂り、家々はボロボロ。人々は痩せ細り、肩を落としている。
子供たちは裸足で走り回る元気すらなく、大人たちは俺たちの馬をぼんやりと見つめている。
(これは……やばいな。)
ただ生活が厳しいというレベルじゃない。
そんな状況の中、俺たちは村の中心にある、一番大きな家へ向かった。
「おお! コア様、来てくださりありがとうございます!」
村長のオサと名乗る老人は、俺の手をガシッと握り、涙を流していた。
「救助要請を出していたのですが、返事も来ず、見捨てられたのかと…… 本当に! 本当にありがとうございます!!」
(……父上よ、マジでこの村を放置してたのか?もしかしたら帝国への対応でいっぱいいっぱいなのかもしれないが。)
「感謝するのは問題を解決してからにしてくれ、村長。早速だが、この村の問題点を詳しく聞かせてくれ。」
村長の話によると、村がここまで荒れた理由は 「オークが増えたこと」 にあるらしい。
「オークが増える前も生活は厳しかったですが、なんとか生きて行けていました。しかし、オークが増えたことで村人が襲われ、作物にも被害が出てしまい、今ではこんなにも荒れてしまいました。他の村から応援や物資を届けてもらおうにも、道が狭く、難しくなっています。」
俺は同行中の騎士団長トーマスに尋ねた。
「トーマス、村人が何人いたらオークを追い払える?」
「男が3人がかりで全員武器を持ってやっと追い払えるくらいでしょう。ただ、複数匹相手だと村人には厳しいかと。」
「なるほどな。」
(単純に数が増えただけで、こんなに村が荒れるか? 何かおかしい……)
「村長、この問題は俺が解決する。ただ、村人たちにも協力してもらうことがあるだろうから、そのつもりでいてくれ。」
「わかりました! 私から皆に伝えておきます!」
「ああ、それと村で一番頭が良い人物を、一人付き人として雇いたい。誰か適任はいるか?」
「それでしたら、私の息子であるワイズがよろしいかと。 読み書きもできますし、皆からの評判も随一です。」
「では、そのように手配してくれ。」
俺たちは村長宅を出て、オークがよく出るという森の近くの村の端に向かった。
「それで、この問題をどのように解決するおつもりですか?」
騎士団長トーマスが尋ねてくる。
「まずはこうする。」
俺は両手を地面に向け、土を盛り上げるイメージをした。
「はぁ!!!」
ゴォォォ——!!!
地響きと共に、高さ2メートルの土壁が出現する。
村人たちは、驚いたようにどよめいた。
「おおっ!?」「こ、これが魔法か……!」
「この土の壁を村の周囲に作る。それで、オークが襲ってきたら、まずはお前たち騎士団が討伐しろ。」
「了解しました! ですが、それでは我々が去った後、村人たちはどうするのですか?」
「その対策はまた後で教えてやる。とりあえず、暇なときに物見櫓を作って、オークの出現にすぐ対応できるようにしておけ。」
(ただオークが増えただけで、こんなに村が廃れるか? もしかして……)
(オークの上位種が生まれて、組織だった行動をしているんじゃないか?)
命令を出すと、トーマスはすぐに部下たちを動かし始めた。
「さて、俺も土壁作りに戻るか。」
俺の魔力総量だと、村をすべて土壁で囲うのに最低でも2週間は必要になるだろう。
(思ったより魔力の消費が激しいな……)
魔力の回復を待ちつつ、地道に作業を進めるしかない。
次の土壁に取り掛かろうとしたそのとき——。
「あ、あの!」
不安げな声が俺を呼び止めた。
振り向くと、茶髪で線の細い青年が立っていた。
少し緊張した様子で、手を服の裾で握りしめている。
「村長の息子の、ワ、ワイズです……! 父から、コア様の付き人になるように言われて、来ました。え、えっと。な、何をしたらいいでしょうか?」
(……気が弱そうだな。)
口調からも、視線の揺れ方からも、明らかに内向的な性格がうかがえる。
だが、村長は「この村で一番頭がいい」と言っていた。
本当にそうなら、俺の右腕になれるかもしれない。
「お前がワイズか。よろしく頼む。」
できるだけ穏やかに言ってみる。
ワイズは一瞬ホッとした表情を浮かべたが、すぐにまた緊張した様子に戻った。
「早速だが、今年この村で取れそうな作物の総量を見積もってくれ。」
「わ、わかりました! で、できるだけ早く見積もります!」
「頼んだ。」
ワイズは小さく頷くと、足早に村の方へと向かっていった。
(……意外と行動は早いな。)
ビクビクしている割に、言われたことはすぐにやる。
もしかすると、適性はあるかもしれない。
そうして、土壁作りを始めて1週間が経過した。
この作業、思ったよりキツい。
土を操るのは簡単だが、魔力の消費がバカにならない。
1日に作れる壁の範囲にも限界があるし、何より体力が削られる。
(俺、完全に「転生したら土木作業員だった件」になってねぇか……?)
だが、1週間で村の3分の1ほどは囲うことができた。
少しずつだが、村の安全は確保されつつある。
(あと1週間……いや、もう少し早めに終わらせたいな。)
そう考えていると、村の方から足音が近づいてくる。
「コア様、作物の見積もりができました!」
駆け足でやってきたのはワイズだった。
(お? 仕事が早いじゃないか。)
ワイズが持っているメモの束を見ながら、俺は改めて思った。
(やっぱりコイツ、意外と優秀かもしれないな。)




