25話
俺は今、アリシアと茶会を楽しんでいた。
まるで先日の凄惨な出来事などなかったかのように、優雅にティーカップを傾け、他愛もない会話を続けている。
しかし——
「コア様は、あのダンジョンでの出来事について、私を責めようとは思わないのですか?」
アリシアが、カップを置きながら静かに尋ねた。
その瞳は、何かを確かめるような、試すような色を帯びている。
俺は少しだけ考えた後、淡々と答える。
「お前にはお前の立場がある。あの場でお前が手を出していたら、大怪我を負う可能性があった。もしそうなれば、国際問題に発展していたかもしれない。」
(確かにアリシアが助けに入っていたら誰も重症を負うことはなかったかもしれない。)
しかし国際問題に発展したら大勢の人の命が危険になってしまう。
「お前の判断は正しかった。」俺はそうはっきりとアリシアに答えた。
俺の言葉に、アリシアの目がわずかに揺れた。
(こいつは冷酷な人間じゃない。短い付き合いだが、アリシアがそのような人間ではないことははっきりと否定できる。)
続けて茶化すように俺は話す。
「それに、あそこで俺がミノタウロスを倒せるくらいの実力を持っていたら、そもそも問題にならなかった。だから、あれは俺の責任だ。」
アリシアはふっと笑う。
「コア様は……強いのですね。」
「いや、まだまだ足りないさ。」
「それでも——」
アリシアは俺をじっと見つめながら、微笑む。
「……やはり、コア様と話していると楽しいですわ。」
「なら、もっと面白い話をしようか?」
俺たちは再び、他愛のない会話を続けた。
ーーー
それから半年後——
俺たちが学園に入学して半年が経った。
その間、俺は無難に授業をこなしつつ、未来の滅亡を回避するための準備を着々と進めていた。
「コア様、こちらが今回のクトーマ家の報告書です。」
「わかった。確認する。」
クトーマ家の規模は全体的に急成長している。
特に顕著なのは軍事力だ。
俺は王都に来てから、ワイズを通じて日持ちのする食料や質の良い装備を大量に購入し、領地へと送り続けている。
これなら、今帝国と戦争になったとしても、クトーマ家単体で1ヶ月は持ちこたえられるだろう。
(……まあ、その間に甚大な被害が出るのは避けられないが。)
俺が報告書に目を通していると、ワイズがふと口を開く。
「そういえば、コア様。今度学園で開催されるトーナメントには参加されないのですか?」
「ああ、今回は見送るつもりだ。」
ワイズは驚いたように目を丸くする。
「意外ですね。てっきり、腕試しに参加されるのかと。」
「……俺には、やるべきことがある。」
ワイズは俺の言葉に首を傾げたが、それ以上は何も聞かなかった。
ーーー
学園編一年目の中盤——
毎年、学園では各学年ごとに実力を競い合うトーナメントが開催される。
原作では、主人公レオンが次々と猛者を倒し、見事優勝する展開になっていた。
そして、優勝景品は "聖なるブレスレット" 。
このブレスレットは、序盤に手に入る装備としては破格の性能を誇り、魔法攻撃を軽減する効果を持つ。
物語の最後まで使えるほどの重要アイテムであり、攻略難易度を大きく左右するものだった。
しかし——
このアイテムは、トーナメントで優勝しただけでは手に入らない。
なぜなら——
優勝景品は、授与式の最中に盗賊団によって盗まれるからだ。
このイベントでは、二つの重大な出来事が起こる。
一つ目は、盗賊団が帝国と繋がっている可能性が示唆されること。
盗賊団の装備は妙に質が良く、ボスの武器には帝国の紋章が刻まれている。
これをきっかけに、主人公たちは徐々に帝国の陰謀を知っていくことになる。
そして二つ目——
盗賊団との戦いの最中、ヒロインであるリリアナが"呪い"を受け、声を失ってしまうこと。
これが、原作において重要な転機となるイベントだった。
しかし——俺はこの流れを変えるつもりだ。
(リリアナが呪いを受けないように、原作を改変する。)
策は単純明快。
"優勝景品を盗まれないようにする" 。
盗賊団の襲撃そのものを阻止すれば、原作の展開そのものを変えられる。
絶対に未来を変えてみせる——!!
「ワイズ、引き続き物資の調達を頼んだぞ。」
「はい! コア様!」
俺は静かに、決意を固めた。




