20話
俺たちは、学園内にある生徒会室の一室へと移動していた。
——俺とクラリス、二人きりで。
生徒会室という場所は、格式高い調度品が並び、静謐な空気が漂っている。
だが、それ以上に、クラリスの視線が俺の神経をすり減らしていた。
まるで罪人を見るかのような冷たい目——いや、それ以上に、俺のすべてを見透かそうとするような、王族特有の威圧感を伴った眼差しだった。
(……やばい、汗が出てきた。)
俺はなるべく平静を装いながら、クラリスの出方を待った。
「——単刀直入に言います。」
クラリスは躊躇いなく切り出した。
その言葉には強い意志が込められている。
「最近のクトーマ家の動きについてですが、王国に対して反旗を翻そうとしているように見えます。クトーマ家に、そのような考えはありますか?」
(……またこの話か。)
この学園に来てから、何度この手の質問を受けただろう。
(どうせ、クラリスも他の連中と同じで、クトーマ家を"悪徳貴族"として見ているのだろう。)
ならば、俺がやることは一つ。
"悪徳貴族は、自分が悪であることを絶対に認めない"
俺は、あくまで冷静な態度を保ちながら、はっきりと答えた。
「そんなことはありえません。」
緊張感を表に出さないようにしながら、できるだけ淡々とした口調を心がける。
「私の父は脳筋で、そのようなことを考えるような人では——」
「——あなたの父ではありません。」
クラリスは俺の言葉を遮るように言い放った。
「あなた自身が、王国に牙を向けようとしているのではありませんか?」
(……なっ!?)
一瞬、思考が止まった。
(俺はただの嫡男であって、普通なら領地の政治に関与できる立場じゃないと思うはず……それを、なぜ——?)
俺は一度深呼吸をし、動揺を抑えながら答える。
「クトーマ家の実権を握っているのは、我が父アークです。私には何の権限もありません。」
だが、クラリスはすぐに次の言葉を重ねる。
「あら、それなら……」
「五年前から始まったクトーマ領の街道建設や、自警団の設立を行った人物である"コア・クトーマ"とは、一体誰のことなのかしら?」
(……!)
二度目の動揺。
クトーマ家は他家との繋がりがほぼない。
そのせいで、王都ではクトーマ家に関する根拠のない噂ばかりが広がっていた。
実際、学園に来てからの周囲の態度を見れば、それは明らかだった。
だからこそ、俺は"クラリスもまた、無知な王族の一人だ"と思い込んでいた。
——だが、違う。
王女クラリスは明らかに、クトーマ家の実態を調査している。
(……なぜ、クラリスはこの情報を知っている? それに、同じ王族なのに、弟のレオンは全く知らなかった様子だった……。)
困惑が隠せず、俺は何も発言できなかった。
ーーー
しばらくの沈黙の後——。
「あなたを試すような真似をして、申し訳ありませんでした。」
クラリスは穏やかに微笑みながら、さっきまでの鋭い雰囲気を和らげる。
「クトーマ家について、事前に調査をさせてもらいました。そして分かったのは——近年のクトーマ領の発展は、あなたによるものだということ。」
「また、報告では、クトーマ家でのあなたの評判は非常に良い。——学園での評判とは正反対ね。」
まるで事務的な報告をするかのように、クラリスは淡々と事実を述べる。
「私には、あなたが"意図的に"学園で悪者を演じているように見えます。」
そして、真っ直ぐな瞳で俺を見据え——
「あなたの目的は、何なのですか?」
静かに、だが鋭く問いかけた。
(……どうする?)
ここで下手な嘘をついても、クラリスには見抜かれるだろう。
さすがに"本当はいいやつだったムーブをするために行動しています"なんて言えないしな……。
俺は軽く息を吐き、慎重に言葉を選びながら答えた。
「……目的は、今は話せません。」
それが、俺にとって最適解だった。
(これ以上追及されたら厄介だが、今はこれが限界だ……。)
クラリスは俺の言葉を聞くと、一瞬だけ考え込んだように見えた。
——そして、ふっと微笑んだ。
「そうですか。今は、その言葉で十分です。」
俺は思わず、疑問の表情を浮かべる。
「追及しないのか?」
「これまでの会話で、あなたが"賢い人間"であることが分かりました。」
「そんな人が、わざわざ"あからさまに"王国に反旗を翻すようなことをするとは、考えにくいわ。」
(……敵わないな。)
終始、会話の主導権を握られていた俺は、内心でため息をついた。
「……ありがとうございます。」
すると——。
「追及しない代わりに、これから定期的に"生徒会の手伝い"をしてくれませんか?」
にっこりと微笑むクラリス。
……が、同時に"絶対に断れない"雰囲気を醸し出していた。
(……これから俺が何を考えているのか炙り出そうということか)
今後の計画通りに進めるのならばここで断るのが得策だろう。
しかし、この状況で拒否する勇気は俺には持ち合わせていないのだった。
「……分かりました。」
俺がそう答えると、クラリスは満足げに微笑んだ。
こうして俺は、思いもよらぬ"生徒会の仕事"を押し付けられることになったのだった——。
(……また計画を練り直さなきゃならないな。)
俺は、新たな“強敵”の登場に、改めて警戒を強めることにした。




