2話
コアに転生してから半年が経った。この半年の間に分かったことは3つある。
1つ目は、案外家庭内環境はよかったこと。
正直、悪役の家だからもっとギスギスした環境を想像していた。たとえば、父親が冷酷で「お前は跡継ぎにふさわしくない」とか言ってきたり、母親が病弱で幽閉されていたり、兄弟同士の殺し合いがあったり……。
でも、実際はそんなことはまったくなかった。
むしろ、普通に平和だった。
父はバカだけど豪快で、母はおっとりしていて優しい。俺の世話をしてくれる使用人たちも、それなりに親切だ。
(……おかしいな。俺が悪役として育つ要素、今のところゼロじゃないか?)
まあ、まだ「ここがあのゲームの世界だ」と確定したわけじゃない。でも、もし本当にそうだとしたら、この平和な家庭環境がどうして「帝国に寝返る小物悪役」を生むことになるのか……疑問しかない。
このままだと、俺が悪役になる未来がまったく見えないんだけど……?
2つ目は、両親の頭がそれほどよくないこと。
これ、結構重大な問題だ。
まず、父。完全に脳筋。
我がクトーマ家は帝国に隣接した土地にあり、戦争が頻繁に起こる地域だ。そのせいで、代々当主は武闘派ばかり。
当然、今の当主である父・アークも例に漏れず筋肉バカだった。
「戦とは気合いと根性だ!」
「策を弄するより、まずは剣を振れ!」
そんな感じの発言を日常的に繰り返している。
そして極めつけは、父がやっている「内政」。
「農作物の生産量が減っている? よし、畑を広げろ!」
「交易相手が減った? よし、軍事演習を増やして強さをアピールしろ!」
いや、違うだろ。どう考えても、どれも間違った方向に進んでいる。素人目に見ても、これはヤバい。
(……あれだ。めちゃくちゃ下手なプレイをしてるゲーム広告みたいな気分になる。)
「なんでそうなる!」「そこはこうするべきだろ!」って突っ込みたくなるのに、どうしようもないもどかしさ。
そして、母。
母・レイナは、のほほんとしたおっとり系。いつもニコニコしながら俺の世話をしてくれるし、裁縫を楽しんでいる。でも、逆に言えば政治や戦争に関してはまったく関心がない。
(……父がバカでも、母がしっかりしてればまだ希望があったんだけどなぁ。)
つまり、クトーマ家のトップ層は「脳筋の父」と「平和ボケの母」で構成されている。
(これ、まともな家臣がいないと詰むやつでは……?)
ここで気になったのは、家臣や側近たちの存在だった。
これまでの観察からすると、どうやら周囲の家臣にはそれなりにまともな人がいるらしい。たとえば、執務室で書類整理をしている文官の人たちは、俺が遠くから見ている限りでは、ちゃんと働いているように見える。
(もしかして、この家の内政は、家臣たちが必死に支えてるのか?)
そう考えると、この家のバランスがなんとか保たれている理由も納得できる。
とはいえ、王国にとって重要な「国境の防衛」を担う領地なのに、このままで本当に大丈夫なのか?
3つ目は、俺の扱いがやたらと良いこと。
いや、悪役貴族の令息だし、もっと「後継ぎとして厳しく育てられる」とか「冷遇される」とかそういう展開かと思ったんだけど。
実際は、めちゃくちゃ甘やかされている。
母は俺を抱っこしながら「よちよち~♡」と幸せそうに頬ずりしてくるし、父も「コア! 男は筋肉が大事だぞ!」と意味不明なことを言いながら、俺の小さな手を握って「お前もすぐに剣を握れるようになるぞ!」と勝手に未来を期待している。
(……っていうか、この状態で、なんで未来の俺は王国を裏切ることになるんだ?)
今のままだと、裏切る理由が全然見えてこない。
何が原因でコアは裏切ったのだろうか?
そんな考えが頭をよぎった、ちょうどそのときだった。
「アーク様、大変です!」
突然、使用人が慌てた様子で駆け込んできた。
「帝国軍の偵察部隊が、また国境付近に現れました!」
「なにっ……!?」
父の表情が険しくなる。
(……帝国の動き? これ、もしかして……)
まさか、これが「俺が未来で帝国に寝返ることになる理由」の始まりだったりするのか?




