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19話

俺たちは今、アリシアが住んでいる寮の応接室に場所を移していた。


王族や海外の要人には、専用の個室がいくつも用意されるらしく、この部屋もその一室らしい。


豪華な調度品が並ぶ室内。


しかし——この場にいるのは俺とアリシアの二人だけ。


侍女たちは部屋の外で待機しており、まるで「誰にも聞かれたくない話がある」かのような状況だった。


(……何を企んでいる?)


敵国の皇女が、自ら接触してくる。

俺が警戒するのも当然だ。


慎重にアリシアの様子を伺いながら、俺は口を開いた。


「それで、俺に接触した目的は何ですか? アリシア様。」


探るように問いかけると、アリシアはくすっと微笑んだ。


「あら、目的がなければ話しかけてはいけないのかしら?」


まるで俺を試すような含みのある笑み。


「……冗談ですわ。」


俺の視線を受け止めると、彼女はふっと微笑みを緩め、ゆっくりと深呼吸をした。


「単刀直入に申し上げますと——ただ、あなたと仲良くなりたいだけですわ。」


「私があなたと“お友達”になってあげますわ。」


そう堂々と胸を張るアリシア。


「……なるほど。」


俺は平静を装いながらも、内心では眉をひそめていた。


(信用できないな。)


皇帝の命令でクトーマ家を取り込もうとしているのか?

あるいは、王国の情報を探るための工作か?


(……とはいえ、これは俺にとっても好都合だ。)


俺がアリシアに懐柔されるフリをしつつ、逆に帝国の情報を探ることもできる。


(少し揺さぶってみるか。)


「俺もあなたとは交友を深めたいと思っていました。」


「ですが——ひとつ、お聞きしたいことがあります。」


俺はアリシアを真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「クトーマ家の悪評は、帝国の策略ですか?」


一瞬——ほんの一瞬だけ、アリシアの瞳が揺れた気がした。


だがすぐに表情を戻し、ぽかんとした顔を作る。


「なんのことかしら?」


「私、政治に関わった経験がないので、よく分かりませんわ。」


(……うまくかわされたな。)


だが、確かに揺らいだ。


「そうですか。失礼しました。」


(まあ、時間はたっぷりある。これから探らせてもらおうか。)


俺がそう考えていると——


「そう! それなら敬語はやめにしませんか?」


突然、アリシアが明るい声で提案してきた。


「今日から私たちはお友達なのだし。」


「……いいのか?」


「もちろん! その方が楽ですわ。」


「なら、俺も敬語はやめる。アリシアも、敬語はやめてくれ。」


「私はこれが普通ですわ!」


——なんというか、自由なやつだな。


ーーー


しばらく他愛もない話をしていると、ダンジョンの話題になった。


「王国の学園では、ダンジョン攻略の授業があると聞きましたの!」


アリシアが目を輝かせながら言う。


「次のダンジョンの授業でペアになりませんか? どうせ、ペアになる人いないのでしょう?」


「……」


俺は言葉を失った。無自覚に放たれたその言葉が鋭い針となり、俺の心にぐさっと刺さった気がした。


(いま、何か聞き捨てならないことを言われた気がするぞ……?)


「なぜ、そう思う?」


「だって、誰とも仲良く話しているところを見たことがありませんでしたもの。」


意地悪そうな笑みを浮かべるアリシア。


「……まあ、ペアを組んでやらんこともない!」


俺はそれ以上追及される前に、すぐに返事をした。


そんな俺を見て、アリシアはくすくすと上品に笑っていた。


「では、そういうことにしておきましょう。」


アリシアは微笑みながら、ふとテーブルの上に置かれたティーカップを指さした。


「そういえば、コア様——お茶を飲まないのかしら?」


「……」


俺は、一瞬だけ目を泳がせる。


実は——このお茶会が始まってから、一口も飲んでいなかった。


理由は単純。


(俺、お茶会の作法知らない……!)


辺境育ちの俺にとって、"お茶会" なんて未知の文化だ。

父を見ればわかるだろう。

あの脳筋が、お茶を優雅に嗜んでいる姿など想像できない。


だが、そんなことを悟られるわけにはいかない。


(適当に誤魔化して乗り切るしかない——!)


「……いや、別に飲まない主義なだけだ。」


「まあ! 帝国でも有名なお茶ですのよ? それに、毒なんて入っていませんわ。」


くすっと笑いながら、アリシアはティーカップを口に運ぶ。


(……くそ、完全に見透かされてる気がする。)


このままではまずい。

無理にでも飲むべきか——いや、下手に作法を間違えたら、さらに恥をかくかもしれない。


そんな葛藤をしていると——


「ふふっ、もしよろしければ、これから定期的にお茶会の作法を教えてあげてもよろしくてよ?」


——アリシアが微笑みながら、さらりと言った。


「……」


俺は思わず絶句する。


(バレてた……!)


くそ、完全に読まれていた。

どこで気づかれた? まさか、俺の一瞬の視線の揺れだけで……!?


……いや、もういい。


ここで強がっても、さらに恥をかくだけだ。


俺は静かに目を閉じ、深く息を吸い込むと——


「………………よろしくお願いします。」


しぶしぶ、そう答えた。


アリシアは、まるで勝ち誇ったように微笑む。


こうして俺は、帝国の皇女と定期的に"お茶会"をすることになった。

もちろん、これは "帝国の情報を探るため" であって——


断じて、 お茶会の作法を学べるのが嬉しい などとは思っていない!!!

……思っていないぞ!!


ーーー


次の日からの一週間、授業は主に座学中心で進んだ。

学園のカリキュラムは実践と理論のバランスが取れており、領地経営、戦術論、魔法理論、歴史など、貴族として必要な知識が幅広く学べる。


俺はというと、相変わらずレオンには敵視されているらしく、すれ違うたびに鋭い視線を向けられる。

まあ、俺の“悪役ムーブ”がうまく機能している証拠だろう。


——そんなある日のこと。


「最近、レオン様とリリアナ様ってすごく仲が良いわよね!」

「平民出身なのに、レオン様に特別扱いされてるなんて……。」

「さすが、特待生……!」


そんな噂話がちらほら聞こえてくるようになった。


(ほう……ついにリリアナと接触したか。)


リリアナ。


ゲームのヒロインであり、物語の中心人物の一人。

魔法特化型の能力を持ち、回復魔法に関しては“神童”と呼ばれるほどの才能を秘めている。

いわゆるヒーラー枠だ。


見た目は、ふわふわのカールがかかった薄いピンク色の髪に、柔らかな光を宿した瞳。

聖女のような優しさと、芯の強さを兼ね備えた少女であり、まさにヒロインに相応しい人物といえる。


彼女は貴族ではなく平民出身だが、その優れた魔法の才能と努力が認められ、特待生として学園に入学した。


「リリアナ様、本当に素敵よね……。」

「平民なのにあの品の良さ……!」


女子生徒たちがうっとりと話すのを聞きながら、俺は内心ほっとしていた。


(原作通り、レオンとリリアナは仲良くなったようだな。)


原作では、リリアナは学園内で孤立しがちだった。

彼女が平民であることや、その才能への嫉妬から、周囲の貴族たちに妬まれ、嫌がらせを受けることも多かった。

そんな彼女を、レオンが救い、絆を深めていく——それがゲームの王道展開のひとつだった。


俺は、物語を大きく変えてしまったことで、レオンとリリアナが出会わない可能性も危惧していたが、どうやらその心配は無用だったらしい。


原作通りなら、コアはリリアナに何かと絡み、彼女を苦しめる立ち位置だった。

しかし、俺の目的は"悪役を演じながらも、本当はいいやつだった"という立ち位置を作ること。


だからこそ、彼女にちょっかいをかけつつ、さりげなく助け舟を出す——そんな動きをしていく必要がある。


(うむ、なんだかワクワクしてきたぞ……!)


こうして、俺は新たな“悪役ムーブ”の計画を練り始めたのだった。


ーーー


週の終わりの放課後——。


生徒たちは授業を終え、思い思いに帰路についたり、友人と談笑したりしている。


俺も席を立ち、そろそろ寮へ戻るか——そう考えていたその時。


「キャア! クラリス様だ!!」


突然、教室の入り口が騒がしくなった。


「クラリス様が直々に来るなんて……!」

「あの美しさ、まさに王族の中の王族……!」

「レオン様に何か用があるのかしら?」


生徒たちがざわつき始める。

どうやら王国の第一王女、クラリス・セイクリッドが教室に姿を見せたようだ。


彼女は整った顔立ちに知性を湛えた瞳を持ち、淡い金色の髪を優雅に揺らしながら、ゆっくりと歩みを進める。


そんな彼女が、教室に足を踏み入れた途端——生徒たちは一斉に道を開けた。

その姿は、まるで女王のようだった。


レオンも姉の来訪に気づいたようで、慌ててクラリスのもとへ向かう。


「姉上、どうされたのですか? 何かお伝えしたいことがあったのなら、私が出向きましたのに。」


少し息を切らしながら問いかけるレオン。

しかし、クラリスはふっと微笑むと、ゆっくりと首を横に振った。


「今日はあなたに用があって来たわけではないの。」


「……え?」


レオンの表情が驚きに変わる。

姉が自分以外の誰かに用がある? そんなことは滅多にないはずだ。


「では、一体どなたに——?」


レオンの問いに、クラリスは一呼吸置いた後、朗々と告げた。


「コア・クトーマ様はいますか?」


——その瞬間、教室内の空気が変わった。


「は?」

「なんで、あいつが?」

「また何か悪さをしたのか?」


周囲の生徒たちの間で、ざわめきが広がる。


レオンも眉をひそめ、警戒するように言う。


「姉上……コアとは話さないほうがいい。彼は危険です。」


レオンの忠告に、クラリスは穏やかに微笑んだまま、しかし、はっきりとした口調で返す。


「それは私が決めることよ。」


そして、まるで俺の居場所を知っていたかのように、クラリスは真っ直ぐ俺の方を見つめる。


俺も、それに応じるように視線を返した。


しばらくの沈黙の後——クラリスは優雅に歩み寄り、誰もが見惚れるほどの美しい笑顔を浮かべながら言った。


「ここでは少し話しづらいわ。よろしければ、もう少し静かな場所でお話しませんか?」


(……また、この展開か。)


俺は額を押さえながら、心の中でため息をついた。

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