番外編 ep.2◇みんなイリスが気になってる【アルウィン視点】
部屋に入った三人は、従業員が食事を運んでくる前に済ませておこうかと、早速会議をすることにした。
全員ローテーブルを囲むようにしてソファーに座り、状況を軽く整理する。
主にアルウィンがイリスと会っていた時間帯、ウィリアムもルークもそれぞれ別行動だったため、それぞれの行動について、他の者に説明することになる。
ルークはヨトウの邸宅に潜入した結果報告。
建物の作りや偽造書類などの証拠がありそうな金庫の位置、私兵の有無についても報告した。
ウィリアムはヨトウ逮捕のために具体的に動くことになる青騎士隊との連携と、邸宅踏み込みの際のルート選定に関して、現状分かっている範囲内で説明した。
アルウィンは、イリスが会計に関わらされていて、アルウィン自身の捜査責任者としての判断で司法取り引きを提案した件について伝えた。
その際、アルウィンが「イリスは、どうやらイデアのことを私の部下だと思っているらしい」と口走った瞬間、もの凄い勢いでルークが噴き出した。
「じゃあ何、アルウィンってば、そのタイミングで本当のこと、全く言えなかったってわけ……!?嘘でしょ……!?」
爆笑を耳にしながら、うっ、とアルウィンがその息を詰める。
彼なりに強く気にしていたので、派手に煽られたおかげで少しだけ凹んだ表情になっていた。
アルウィンとしては、その事実を伝えることで、あの時すごくホッと一安心していた彼女を、また大きく混乱させることには気が引けてしまったのだ。
実際、その後に突発的に訪れたイリスとの二人っきりのティータイムは、ひどく心に優しい時間だった。
暖炉のおかげで山小屋中がすっかり暖かくなっていたこともあるが、ゆっくりとお茶を飲みながら交わした「美味しいね」「温かいね」などという何気ない会話も、とても良かった。
どうしてもその心地よさを壊したくはなかった。
そしてウィリアムの方は、別にアルウィンを笑ったりはしていなかったのだが。
彼にしてみるとものすごく珍しいことを、「ついたった今、ふっと思い出した」かのように口走った。
「そういえば、イリス・フロレンティナ・ストレリチアについてなのだが。彼女は、なかなかいいな」
「えっ!?ウィリアム!?」
「ど、どうしちゃったの?君が女性を褒めるなんて……!?」
ウィリアムは過去に色々あったため、基本的に女性には非常に冷淡な態度を取る。その心を許している、とあるひとりの令嬢を除いては。
そのため、彼が、女性を相手にここまで手放しで褒めるのは、本当に珍しいことなのだ。
ルークとアルウィンは二人揃って声を上げて驚愕することになった。
とりわけ、イリスのことを好ましい令嬢として気になり始めているアルウィンは「待て、まさか今後、お前が恋のライバルになる可能性があるとでもいうのか!?」と恐れてしまい、声にいくらかの焦りが滲み出てしまっている。
「私が森で『氷』の魔法を放ったあの瞬間、私の威圧に対抗しようとしてきた」
しかし、ウィリアムが目を輝かせながら口走ったのは、「女性としてどうこう」という話では全くなかったので、思わず身を乗り出してソファーから立ちかけてしまっていたアルウィンとルークは「なぁんだ……」とそのまま座り直した。
ただし、別の意味で興味深い話題ではあるので、そのまま話の先を促す。
「ええーっ?対抗っ?」
「……本当に?」
あの直後、アルウィン以外のふたりは時間になるまで少し一緒にいたはずだったが、その間、特にそういう話題は出なかったこともあり、ルークは増して不思議そうにしている。
当然、アルウィンもイリスがそんなことをやってのけていたとは意外で、訊き返してしまった。
隣で魔法を教えていて四属性の魔法への強い才能は感じられていたが、まさか戦闘的な思考までできているとは、思いもよらなかったのだ。
「私の『氷』の魔法が『水』と『風』の二つの属性由来と察したんだろうな。直後に、対応するような形で『火』と『風』の魔力回路の揺らぎを感じた。結局魔法は発動させず、そのまま私の『氷』を受けたようだが。私に手の内を晒すことを避けたのだろう。思わず追撃してしまうところだった」
「ほえ!?君ら、あの瞬間、そんなことしちゃってたの!?」
ウィリアムの説明にルークはそのタレ目を見開いて驚いていたが、アルウィンは既にイリス本人から「叔父や他の一族の人に利用されたくないから、『風』以外の属性は隠しておきたい」という話を直接聞いていたため、「なるほど、そういう判断か」と納得する。
実際、戦闘に非常に強いウィリアムが絶賛に近い評価を出しているので、「イリスの判断は間違えていなかったと、証明されたんだね」とアルウィンは理解した。
「冷静かつ慎重、いい判断だ。あれはいい武人になるぞ」
うむ、と大真面目に頷きながらウィリアムが言うので、さすがにルークがツッコむ。
「ならないよ。何言ってるの。イリスちゃんは女の子、公爵令嬢なんだよ?」
「ウィリアム。いくら女性が苦手だからって、まだ学園入学前の令嬢に対してその発言は、さすがに……」
アルウィンも、少し引き気味に、たしなめるような言い方をしたわけだが。思いのほか、ウィリアムは真剣な表情で断言する。
「いや、なれるだろう。四大属性全てが使える魔法使いなんて、攻撃特化したらとんでもないことになる」
ウィリアムのとことん魔法脳筋な部分に呆れつつも、確かに、「四大魔法の攻撃特化はとんでもないことになる」という意見には一理ある……と二人して考えてしまった、アルウィンとルーク。
彼らは揃って沈黙して、「今の話、どう思う?」と思わずお互いの顔を見合わせてしまった。
正式に探偵助手となったイリスは今後の作戦において三人と絡むことも増えるはずだが、女子が苦手なためにウィリアムが今後もイリスに対して冷淡に当たるかもしれない、という心配はこれで完全になくなった。
しかし、全く別の意味での不安ができてしまったかもしれない……。
たとえば、ウィリアムがその魔法脳筋の者特有の勢いのまま、令嬢相手に女性扱いを度外視して、戦闘談義をしようと迫る可能性が出てきてしまった。
あまりよろしくはない状況だと思われる。
「ま、まぁ、言われてみたら、そうなのか……?だが、個人的には、イリスがそうなってしまうのは……ううーん……」
「でもさ、何度でも言うけど、相手は公爵家のご令嬢なんだよ……?」
非常に良い素質の持ち主である武人の卵を見られたな、などと心から満足そうなウィリアムとは反対に、あまり想像したくはない未来かもね……という意見で、残り二人の想いは一致していたのだった。
第27話「安心したわ、お茶しましょう?」の後のアルウイン・ウイリアム・ルーク3人組の、シーニャさんの宿屋のお部屋での会話。
※本編にて2025年01月21日投稿済の1話分を番外編として分離・移行して収録。




