第56話◇私もパーティに行けるそうです
「それから――イリス。来月のお披露目パーティについてだが、正式に魔法局からの通達と一族からの認定を受けたため、お前も参加することが確定した」
恒例の食事時の叔父様による通達。
その最後に、叔父様は苦虫を嚙み潰したような表情で付け加えた。
私はイデアとの数日前のやり取りを思い起こす。
「ひとまず、押収した証拠を精査する必要があるんだ。その間、モルヒ公に関しては監視を付けて泳がせておこうか」
イデアはそう言っていた。
ここ最近、叔父様は捜査に応じざるを得ない状況だ。
表向きには「お抱えの会計責任者が起こした不祥事について」という形で、捜査官は叔父様から話を聞くつもりらしい。
現在は全ての会計書類が国に提出・監視されている。
これから叔父様に接触する人々を丁寧に洗っていくつもりなんだって。
いずれ契約先の後ろ暗い世界の者たちが、絶対に接触してくるはずだから。
叔母様とアネモネに対してはバレたくないのか「王城での仕事がある」と説明しているけれど、内心ではヨトウさんが洗いざらい自白してしまうかもしれないと強く恐れているようで、叔父様は毎晩ぐったりした様子で帰宅する。
「はい。ありがとうございます」
私は叔父様の通達に応えた。
本当は「やったわ!!」なんて大きな声で叫び出したい気分だったけれど、何とか押し殺してなるべく平然と応える。
ちょうどテーブルの反対側のアネモネも、同じく何か叫び出しそうな状況を必死に耐えているようだった。
きっと私への怒りやいらつきだと思うけれど。
「ふんっ……。でも、ドレスは私のお下がりで十分よね!!」
本当は何かもっと色々な文句をぶつけたかったみたいだけど、さすがのアネモネも国や一族の正式な決まりには逆らえない。
だから、まるで捨て台詞みたいにそれだけ言い放った。
ああ、アネモネに言われるまで完全に忘れてたけれど、確かにドレスは必要よね。
それはそうだわ。
「しかし全く淑女教育を受けていない者を人前に出すわけにはいかない。王族や交流がある高位貴族の方もご招待しているからな。そのため、明日から教師を屋敷に呼ぶ」
「はい」
淑女教育も子供の頃以来、初級止まりだから、確かに学ばなければまずいだろう。
会食が終わって食堂から出て行く前、アネモネにジロリといらだちがこもった目つきで睨まれてしまった。
私はそそくさと食堂から離れる。
「精霊姫の座は、渡さないんだから。いい気になるんじゃないわよ。フレイムウルフの方が格上に決まってる……!!」
去り際、アネモネはそう怒っていた。
今も気持ちが収まり切れないようで、叔父様に文句を言うアネモネの声がドアの向こうから漏れ聞こえている。
私が歩みを進めるたびに段々と遠ざかる、ふたりの声。
「何でですのっ、お父様!!」
「魔法官に悟られては隠蔽もできない……」
「そんな……!!」
……つまり。
やっぱり、チィとの契約を果たした上にアップルさんの魔法認定を公的に受けられたことで、私の未来は大きく変わったようだ。
ほら、ちょうど今――少し離れたところにいた叔父様付きの侍従と、たまたま目が合った。
すると、相手はサッと私に頭を下げて胸に手を当てて、「自分より身分が高い相手にする挨拶」をする。
叔父様たちの前で風の魔法を使って見せた時に、一族の傍系というこの人も、側に控えて見ていたから。
叔父様がいない時だけだけど、無視せずにちゃんと挨拶をしてくれるようになった。
良くも悪くも実力主義。
それがストレリチアらしい。
そのため、ずっといないも同然の扱いだった私も、ここ最近は周囲からの扱いが少し変わったみたいだと感じている。
『ほんっと、現金なものねぇ。人間って』
そんな状況に、左肩の上のチィも「呆れた」とばかりにさえずった。
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