第48話◇初めての魔法戦
「まずは、肩慣らしだ。イリス・フロレンティナ・ストレリチア。あのデカブツに思いっきり『風』をぶつけられるか?」
視線で示された先を見てみると、ちょうど他の私兵たちより二回りくらい体が大きい、こん棒を手にした私兵の人がいる。
あの人がご指名の「デカブツ」なのだろう。
「はいっ!!や、やってみます!!」
私はドキドキする気持ちを抑えてこの手を構えて、適した呪文について考える。
「風」をどう扱うかを。
思いっきりぶつけるってことは、勢いがあった方がいいのかしら。
「……風よ、集りて渦となれ」
差し出した両手の間、白の「風」の魔法陣が現れた。
手元に集まってきた風は渦を巻きながら球形にまとまっていき、それは少しずつ大きくなっていく。
「清廉なる白き輝きを纏いし我が風よ、かの敵を穿て!」
そして人の頭くらいの大きさに育った風の渦を、私は勢い良く前方に押し出して飛ばした。
その私の「風」の魔法に合わせて、ウィリアムさんがタイミングよく、彼の「水」と「風」の魔法陣を展開する。
「白き息吹を纏いし我が氷の矢よ、かの者を縫い留めよ」
私の風の威力を取り込んだ氷の矢は白銀色に輝いて、さらにスピードを増して渦を巻きながら相手に襲い掛かった。
バキバキバキ、と大きな音を立てて急成長した氷柱がその下半身を縫い留める形で完全に氷漬けにしまったようで、こん棒の敵は何もできないままその場に跪いて、全く動けなくなってしまった。
他の私兵たちも何人か巻き添えになっている。
そこに青騎士隊のメンバーが取りついて、さっそく捕縛を開始した。
「おおー、イリスくん、お見事~」
アップルさんがその手を叩いて褒めてくれる。
獣人の肉球があるから「パチパチ」ではなく「ポフポフ」と。
「いけそうだね。うまいことウィルの魔法を、風でパワーアップさせられてる」
イデアも笑顔になってくれたから、「よし、もっと役に立てるように頑張ろう!!」とやる気がグンと上がった。
「緊張、少しは解けた?」
「大丈夫です!!」
ルークさんに頷きながらも、私は手ごたえを感じてぎゅっと手を握りしめる。
いける、きっと……!!
『よしよし。いい感じじゃなーい、イリス』
「えへへ」
チィもしっかり労ってくれて、嬉しい。
『イリス。今回、本当に命が危険な状況になるまでは、私はサポートに徹するわ。魔法の制限も一切なし。自分と探偵団の仲間たちだけで何をどこまでできるか、挑戦してみなさい』
実はチィにはこう言われていたから。
「イデア、次はどうするの!?」
そして私がこの場で判断を仰ぐのは、青騎士隊と探偵団メンバーを統率しているイデアだ。
「手っ取り早くヨトウ本人を捕まえたいところなんだけれど……あの男のことだから、襲撃を察知した時点で逃げただろうな。ヨトウの居場所も探したいが、どの道、青騎士が囲んでいるからこの敷地内からは絶対に出られない。まずは向かってくる敵の私兵の数を優先的に減らそうか。場の制圧を優先するよ」
剣を手に足早に歩を進めながら、イデアは方針を伝えてくれる。
台詞もいつもよりずっと早口だ。
「分かったわ!!」
私も置いて行かれないようにとその背中を追いかけた。
私兵はまだまだ集まってきていて、それをすかさず全員で制圧していく。
強い敵だったら私は防御に徹する予定だったけど、まだ余裕があった。
だから色んな魔法を切り替えながら、なるべく多くの人を捕縛できるようにと、広範囲に足止めできるような魔法を使っていく。
突進してくる人を「火」で足止めしたり、「土」を使って足元を蔦で絡め取ったり、「土」と「水」で沼のようなぬかるみの落とし穴を作ったり、「風」で「土」を舞い上げて目潰し状態にしたり。
すると、「隙あり」とばかりに探偵団のみんなや青騎士隊の人たちが最後のとどめを刺していく。
「いっくよ~?はいっ、ドーン!!」
手を空に掲げたアップルさんが「ドーン」と口走ったと同時に「土」の魔法陣が展開して、本当に大岩が上空からドーン!!と降ってきた。
追い立てられた私兵たちが、どんどん私が作った蔦に躓いて転んだり、落とし穴に嵌ったりしていく。
「おお~、いいねいいね、イリスくん、その調子だよー!!」
「はいっ!!」
全員で協力して戦っていると、私兵の数が段々と減っていくのが分かる。
いい感じだわ。
「はーい、捕縛した奴らはこっちに連れてきてね~」
青騎士隊の人たちはルークさんのその呼びかけに応える形で、捕まった敵を一か所に集めた。
「ブラック・ロープ、っと」
ルークさんがそう唱えて一度その右足を軽く持ち上げてから、ハイヒールのかかとを地面にカツッと打ち付けるようにする。
すると、その部分から突然、濃紺の魔法陣がヴンッと広がった。
そこから闇色のロープ状のものが現れて、瞬く間にぐるぐると敵をひとまとめに固めてしまう。
その途端、巻き付かれた敵たちは、それまでは逃れようと暴れたり叫んだりしていたのに、全員が急に大人しくなってその場に座り込んでしまった。
「え、何、一体どうなって……」
「心配する必要ないよ、イリスちゃん。ちょーっと悪い夢見ちゃってるだけ。全身から生気が抜けて心身動かせなくなって、気が付いたら牢屋で寝てた、ってなるだけだよ~」
うふふ、とルークさんは偽物悪女らしく優雅な笑みを浮かべているけれど、少し怖いことを言っている。
あ……これ、心身に作用する「闇」の魔法だ。
私はようやくそれに気が付いた。
ルークさんは「闇」の魔法の使い手だったのだ。
やっばり、彼は王族の人だったんだわ……。
だからあえて本人と結び付けられないように、今はこの女性の姿を貫いているのかもしれない。
……いや、それにしてはずいぶんと女体生活を楽しんでそうだけれども。
それはそれとして。
そうこうやっているうちに、場が制圧されてきた。
何とか何事もなくこの戦闘も終わりそう……。
こう感じた瞬間だった。
その期待はあっという間に霧散してしまった。
敷地の奥から新手の敵が現れる。
それは。
「っ、あの足の入れ墨の人、だ……!!」
私は息を飲む。
ものすごい速さで剣を手にこちらに走って向かってくるその男は、私を殺したあの人だった。
構えた長剣自体のデザインが、そして剣の構え方そのものが、間違いなく同じだった。
今回も、この人は南ストレリチアにいたのだ。
「っ、まさか、イリス……あの男が」
イデアの問いに、私は頷く。
すると彼は明らかに私をかばうように前に出た。
でも、足の入れ墨の人が、森ではなくてここにいるのはどうしてなの……?
私が自分の行動を変えたから、前回とは「十の月の二十二日に起こること」も変わってしまった?
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