第47話◇強制捜査を開始します!!
昼。
十の月の二十二日。
私たちはヨトウ・キャビッヂ邸の門の前にいた。
イデアは例のあの「小説の探偵さんに見える帽子」をかぶっているし、アップルさんも猫の獣人の姿に扮している。
ルークさんは……その。
チラリと視線をずらすと、隣には「どう見ても綺麗な女の人」なルークさんがいて。
私の視線に気づくと、バチンとウインクと投げキスをしてきた。
「イリスちゃーんっ、今日は頑張ろーねっ!!」
「あっ、はい、頑張りましょう!!」
応えたものの。
うーん……。
見た目はとても大人セクシーな美女なんだけれど、漆黒のホルターネックのドレスの胸部からおっぱいがぽろりとこぼれそうだったり、スカート部分には深くスリットが入っていて、スラリとした足がチラ見えていたりするのだけれど、中身はとってもルークさん本人だ。
ハイヒールまではいているのに、普通にこのまま乗り込んで戦う予定らしい。
すごい。
私だったら転んじゃうわ。
やがて、青騎士隊の方に打ち合わせに行っていたウィリアムさんが戻ってきた。
ウィリアムさんだけは変装せずに、正規の青騎士隊の制服を着ている。
国から正式な捜査の権限を与えられてやってきた、隊長としての身分を示すために。
そしてウィリアムさんが戻ってきたことが、いよいよ強制捜査開始の合図だった。
「――さて、イリス。そろそろ行こうか。南ストレリチアの次期当主として、宣言してやるといいよ」
イデアが言って。
ウィリアムさんも大きく頷く。
アップルさんはニヤリと笑っていて、ルークさんも「やっちゃえやっちゃえ~」と小声ではやし立てている。
「うん」
返事をした後、私は意識的に目を閉じた。
大きく息を吸い込み、吐き出して、一度気持ちを整えた。
みんなが、「君が始めろ」というように私を見ている。
青騎士隊の人たちさえも、いつの間にか、全員私に注目していた。
すう、と再び息を吸って。
私は宣言する。
「いずれ南スチトレリチアの当主になる者」としての意志を胸に。
「それでは、今から――強制捜査を、開始します!!」
まずは目の前、ガッチリと魔導鍵をかけられて閉められているロートアイアンの門を力業で突破することになる。
「突破口を開く。全員下がれ」
ウィリアムさんが命令して、全員が一歩ずつ下がる。
すらりと腰から抜かれた剣は、白銀色に輝いていた。
その刃に彼が持つ氷の、「水」と「風」の魔力を纏わせているのだと、私にも分かった。
キイン、とマナが震える音がする。
「……フッ!!」
横薙ぎに剣を振るった瞬間、「水」と「風」の魔法陣が門の左右に現れる。
吹き出された霧状の水が風に舞って鉄の門全体がビキリと凍り付いた。
そして一拍置いた後、門だったものはただの氷をまとった鉄の棒切れになっていた。
ウィリアムさんはその氷の刃で鉄を断ち切ったのだ。
感性の法則に従った鉄棒のいくつかはそのまま邸宅の入り口付近まで吹っ飛んで、その結果、ドガン!!ガランガランガラン!!ガシャガシャン!!パリン!!なんていう、激しい崩壊音が辺りに鳴り響く。
「ひゃあ!!」
驚きに思わず私は声を上げてしまって、口元を押さえた。
やっぱり、ウィリアムさんの魔力はすごいわ……!!
たったの一度剣を振っただけで、ここまで!!
凍り付かせることと風で鉄棒を飛ばすことを、同時にこなしてしまうなんて。
「わーお。これは派手に飛んだねぇ、ウィリアムくん!!」
アップルさんの興奮が現れたかのように、その猫耳と尻尾の先がピクピクと楽し気に動いていた。
すごいなぁ、魔法を極めたら、変身した時の耳や尻尾もこんなにリアルに動かすことができるのね!!
自然とそんなことを考えられるほどに心の余裕がある。
初陣の私が緊張し過ぎないような雰囲気を、探偵団の皆様がその表情や台詞で作ってくれているような気がするわ。
今の大きな物音で、邸宅の中のヨトウさんや私兵にも、私たちの訪問は伝わったはずだった。
その証拠に、どこからともなくワラワラと私兵たちが走って集まってきていた。
すると、前を見据えていたはずのウィリアムさんが、くるりと私の方を振り向いた。
ここから第4章となっております。
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