第45話◇その強制捜査、私も行かせて下さい!!
「それは……ものすごく危険だから、責任者としては認められないよ。大勢の私兵が確認されているし、相手は確実に抵抗してくるだろうね。乱戦になるかもしれない。今回の任務の中でも、君の命を守ることは最優先事項なんだ」
想定通り、イデアはその首を横に振って、認めてくれなかった。
任務を任された者としての、強い意志を感じた。
「でも、私も南ストレリチアの跡継ぎ候補として、全てを見ておきたい。叔父様たちの罪も、全て」
でも、こちらも引けない。
「お父様だったら、きっとそうするから。跡継ぎとして、お父様みたいな領民たちに慕われている人が、私が目標にしたい、理想の領主だから。南ストレリチアの精霊姫としての『資格と義務』を、皆に示したい」
だって、イデア自身が言ったんだもの。
「新しい当主となることを目指す者として、立て」って。
「イリス……」
『言われちゃったわね、イデア。要するに、イリスはあなたが言ったことをちゃんと心に刻んで、忠実に実現しようとしているだけだわ』
チィがイデアを説得して私の後押しをしてくれている。
けれど、彼はまだ意見を変えないままだ。
「確かに、そう言いはしたけれど」と言いたげに私を見つめている。
不安そうな顔。
好きな人に「一緒に行きたい」と言った結果、そんな顔をさせている。
自分が本当にふがいない……。
『そうねぇ。確かにイリスは経験不足かもしれない。初陣と考えると心配になる気持ちも分かるわ』
すると、イデアが一番懸念してそうなことをチィはあえて指摘した。
だから、私は改めて要求を言い募ろうと試みる。
「チィ……でも、私は」
けれど、口元にチィの翼が触れる。
今は任せておいて、と言うように。
『でも、公爵令嬢でありながら味方が少ないっていうこの子は、早く育たなければならないのよ。貴方たちもいずれは自分の正式な持ち場に戻らなくてはならない。そうでしょう?』
「それは、そうだが……」
イデアは眉を寄せて斜め下を見る。
帰ってしまうこと自体を否定することはなくて、その事実が私の心にズンと重い。
『だったら、貴方たちがいる間にしっかり経験を積ませた方が得策。それにこの子、魔力だけは膨大だから、防御のみに徹したなら、今の時点でもそこそこいけると思うわ』
チィはこう言葉を続けてくれた。
なので、私も一緒に頭を下げて懇願する。
「お願いします!!絶対、足手まといにならないようにしますから……!!」
確かに、今の私にはまだ身を守ったり戦ったりする術がほとんどない。
そういう意味でも、この貴重な修行の機会を逃すわけにはいかないのだ。
しばらくの沈黙の後、はーっ、とイデアが細く長く、息を吐き出したのが分かった。
困惑と諦め混じりに。
「……俺としては、イリスが傷つくはめになるかもしれないと思ったら、気が気じゃないんだけれど……」
説得されたことで気持ちを揺らしつつも、イデアとしてはまだ安全面を強く考えてしまうみたいだ。
すると、チィが挑発するみたいにさえずった。
『あら。あなたを始めとした探偵団メンバーは、そんなに取るに足らない能力しかない人間の集まりなのかしら?守りに入るだけでは欲しいものは得られない。そうでしょう?』
ぐ、とイデアは言葉に詰まってしまう。
チィの主張がいい感じにクリティカルヒットしたみたいだった。
「そう言われると、何も言い返せないな」
完全にチィに言い負かされる状況になってしまって、いよいよ、本日最大のため息がイデアの口から出てきた。
「イデア……」
お願い、と私は真剣にイデアに願う。
その視線をしっかりと見返して、イデアはしっかりと頷いてくれた。
「君の気持ちはよく分かったよ、イリス」
笑顔で、そう理解を示してくれた。
「無理はさせない。でも、ちゃんと戦いの場での君の活かし方も考える。この探偵団の団長としてね」
だから、私はようやくホッとして、チィとお互いの顔を見合わせる。
良かったわね、というように、チイは私の左肩に飛び乗って、そのほっぺたを摺り寄せてくれた。
「ありがとう、イデア……!!チィも、ありがとう!!」
『さーて、明日からは特訓ね!!』
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