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第44話◇まだ彼に言えていなかったこと

『ちょっと、今の光……大丈夫だったの!?』


 やがてチィが、文字通り飛んできた。


「あの光で目くらましをしたから、尾行自体は見つかってはいないはずだ。奴らはそのまま二人揃って邸宅に入っていった。ただ……イリスが、少し驚いてしまったみたいで」

『え、イリス?何かあったの?』


 チィに顔を覗き込まれながら問われて、私は一瞬、イデアの前で「前回、私を殺した入れ墨の男について」語っていいものだろうかと、考える。


 けれども、私は意を決して、ここで全てを伝えてみることにする。

 イデアは敵ではないと信じて、勇気を出す。


「……あのね、私、あの森で一度死んでしまって、女神様の加護を頂いたことで何とか生き返ったの。『今度こそ正しき道を選びなさい』って、この指輪を頂いて」


 指輪を指し示して説明すると、イデアは少し驚いた表情になったけれど、同時に納得したような顔で私の顔を見つめた。


「その話は、実は知ってたんだ。その時、君とアルウィン王子と部下たちが、どう亡くなったのかも」


 私は驚いて彼の瞳を見返す。


「殿下ご本人からお聞きしたの?」


 質問すると、イデアは少し微笑んで見せたから、私はそれを肯定なのだと思った。


「アルウィン王子もその時に死に戻っていて、女神様から直接、君にも加護を与えたと知らされた。そういうことだよ」


 やっぱり、私以外にもあの惨劇から死に戻った人がいたんだわ。

 そしてそれこそがアルウィン殿下だったのだ。


「だから俺はここに来たんだ。もちろん国からの指示で、君が女神様の加護を本当に受けているのか認定する必要があったし、モルヒ公の罪の捜査のためでもあった。ただ――」


 イデアの指先がそっと私の肩に触れてくる。

 思いがけないことばかりを耳にしたせいですっかり体が固まってしまった私に気付いて、その緊張感を解こうとするかのように。


「俺が君を守るためにこの南ストレリチア領に来たというのも、事実だよ」


 そしてチィはというと、「なるほどね」という表情になっていた。


『加護を得たってことは、女神様がいらっしゃる天上界に魂が呼ばれる形で女神様にお会いしたんだとは、思ってはいたのだけれど……。そういう話で加護を得ていたのね』

「それとね、どうして私が死んだかっていうと、足にトカゲの入れ墨がある男に暗殺されたの。その入れ墨と全く同じものが左頬にある人が、さっきヨトウさんの家に来ていて……」


 私はこのことも伝える。


「犯人の足に入れ墨があるのを、君は見ていたのか!?」


 イデアは、その情報は知らなかったらしい。

 襲撃者の一人の足にトカゲの入れ墨があったことまでは、彼らを追っていたアルウィン殿下も知らなかったのかもしれない。


「ええ。だから、さっきの……あの男の人にあったトカゲの入れ墨を見た瞬間、すごく怖くて……」

『それで動揺して、尾行が失敗しそうになって、イデアが急遽あの光る魔法を使った……ってことね』

「うん。イデアは光る魔導具を使ったって言ってたけど」


 けれど、その「魔導具」と言ったタイミングでチィが首を傾げるそぶりをして。

 イデアは少し黙っていた。

 何か気になることでもあるのかしら?


「あら……そう。ふうん?まぁどっちでもいいけれど」


 けれども大したことではなかったようで、チィは話を流した。

 なので、私も気にしないでいることにする。


「怖いっていうことは、君は知っているの?あの入れ墨を」

「分からないわ。だけど、とても怖いものな気がして……」


 イデアに訊かれたけれど、見たことがあるだけで、自分の不幸な記憶との確かな結びつきがあるだけで、「一体どこの組織の入れ墨なのか?」や「彼らは何者なのか?」などという具体的な情報は全く知らない。


 だから私は首を横に振る。

 すると、彼は大きく頷いた。


「……そうだね。怖いもの、確かにそう言えるだろうね」


 イデアはそれを完全に知っているらしかった。


「あの赤と黒のトカゲのマークは……『金赤のトカゲ』という、主に禁輸品を扱っている国際犯罪組織のものだよ。最近活動が活発になっていて、我が国も警戒し始めていたんだ」

「『金赤のトカゲ』……?」


 その組織名を聞いたことはなかった。

 前回も今回も。


「こちらもここ数年ほど、国側がずっと追いかけていたんだけど……。まさかここでヨトウと『金赤のトカゲ』が繋がるとはね。ヨトウの屋敷が密輸のための仲介拠点になっているのかもしれない」


 そう口走ってから、イデアは何か考えているようで、しばらく沈黙していた。


 各国を相手取るような国際犯罪組織。

 どうしてそんな大きな組織が、私の命を狙ったり、南ストレリチア家の会計問題にまで大きく関わっていたりするの……?


「まさか叔父様自身が、『金赤のトカゲ』を南ストレリチアに引き込んでいる……?」

『まぁ、その可能性は強そうよねぇ』


 チィも大きく頷いて同意してくれた。


 そしてその「引き込み」は今回だけのことではなく、前回でも、そうだったかもしれない?


 私は前回、単に「叔父様にとって邪魔だから殺されたんだ」と思い込んでいたけれど、実は自分が思っていたよりももっと大きな、領地どころか国全体、犯罪組織の利権に関わるような、複雑なことに巻き込まれていたのかもしれない……。


 その後、イデアは私を屋敷の近くまで送ってくれた。


「今日は、本当にありがとう。あとは今日得られた情報とヨトウの行動パターンを分析して、奴の自宅に踏み込む日を決めようと思う。奴とモルヒ公が逃亡など、不審な行動をするようなら連絡して欲しい」

「うん」


 私は頷いて。

 けれど、歩いていたその間、ずっと心に思っていたことをイデアに伝える。


「……あの、ね。ヨトウさんのお宅に踏み込む時、私も一緒に行きたいの。連れていって欲しい」


 そのことを、どうしても言いたかった。

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