第43話◇嘘、抱きしめられてる!?
そう思った、瞬間。
「う、っ……!!」
辺りがとんでもなく眩しくなって、私は反射的にぎゅっと目を閉じてしまう。
何故か視界が眩し過ぎて、目を開けるわけにはいかなかった。
「ごめん、イリスっ、少し触れさせて……っ!!」
イデアの声が耳元で響いたかと思うと、急に腕を引き寄せられて。
私の頭は何かに押し付けられた形になる。
「な、に……」
状況を確かめようとしたけれど、顔はぎゅうぎゅうと何かに押し付けられていて、頭も上げられない。
イデアに謝られてこうなっている、ということは、イデアがそれをやっているんだと思う。
けれど、何も見えない。
少し息苦しくなってきて顔をずらそうとしながら、じわりと薄目も開いてみる。
ただ、まるでとんでもない光の洪水に遭ったような眩しさに、再度顔を元の位置に戻すことになった。
しばらく、私は眩しさと息苦しさに耐え続ける。
そうして数分後。
耳元でイデアの声がした。
「立っていられるかい?あの二人は行ってしまったから、もう顔を上げても大丈夫だよ、イリス」
「う、うん……」
促される形になって、私は顔を上げて目も開ける。
気が付くと、いつの間にか、私はイデアに抱きしめられる形になっていた。
私が顔を押し付けていたのは、イデアの首筋から肩にかけての部分だったことも、分かってしまった。
「っ、あ、っ……」
いつの間にかイデアに抱き着く状態になっていた事実に気付いて、バッと私は離れようとする。
とにかく恥ずかし過ぎて赤面してしまいそうになる気持ちと、「もしかして、私のせいで尾行に失敗したんじゃ」という絶望感に苛まれながら。
「あ……、私……」
「大丈夫。見つからなかったよ。俺が、その、強い明かりで相手の視界を混乱させて見えなくする魔導具……それを、使ったんだよ。だから、相手からは何も見えていない」
「そう、なの?」
恐る恐る訊ねたけど、きっぱりと「そこは全く心配ないから」と改めて伝えられる。
「ただ、万が一のために、顔だけは見られないようにって隠そうとして、その……君を抱きしめてしまった」
けれど、こう続けられて。
至近距離で見たイデアの顔は真剣な表情だった。
少しその頬が赤かった。
やがて、私はまだ背中に回されたままのイデアの腕と、首筋を撫でるように触れている手の感触に気が付く。
その腕の中に閉じ込められるみたいにされていることも、理解してしまう。
「……っ!!」
慌てて「離れなきゃ」と思って動いたはずだったのに、そうはならなかった。
ますます腕の力は強くなって、私は元通り、またイデアの首筋に顔を埋めることになっていた。
「ごめんね、イリス。……もうしばらく、こうさせて」
声が近すぎる……っ。
囁くみたいに言うもんだから、耳元に息がかかってぞわぞわしてしまう。
お互いの触れあっている場所が、ひどく熱い。
イデアの体温も伝わってきている。
「ん……っ」
何とか頷き返したけれど、ほっぺたにも、サラサラとしたイデアの髪の毛の感触があった。
その薄茶色のはずの毛先が透けて、何故か金色に見える。
最近はいつもイデアのことがキラキラして見えて、私はおかしい。
今も、とてもおかしい。
だって、イデアとこうしているのが、とても――とても恥ずかしいのに、同じくらい嬉しいの。
私もイデアと同じ気持ちで、もっと彼とこうしていたいって思ってる……。
だから私も、自分から擦り寄るみたいに、イデアの肩口に頭をくっつけてみる。
離れようとはしないまま。
あ……でも、さっきの魔導具?から放たれた属性は、『火』『水』『風』『土』のどれでもないみたいだった?
すごく眩しい、光だったけれど……。
それとも、火の魔法を広範囲に照らすような形で拡散させる魔導具だったのかもしれない?
考えていたけれど、するりと背中を撫でられてしまった。
はうう、背中触られてる……。
イデアがすること全て気になって、気が散りまくって、何も考えがまとまらないわ……。
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