第40話◇お父様のお話と私に寄せられた期待
「おお、イリス様じゃないですか!!奥でジュースでも飲んでいかれますか!?今日は新鮮なりんごが入ってるよ!!」
店主のセオさんが声を上げて、たっぷりとりんごが入った木箱を置いて出迎えてくれる。
この人も昔から私を知ってくれていて、会うたびに「もしお爺様がいたら、こんな感じなのかしら」と私はいつも考えている、そういう温かい人だ。
「ええ、頂くわ。りんごのジュース二つ、いいかしら。それと、こちらの探偵さんが、王都からヨトウさんのことを調べにいらしてて……」
私はイデアを紹介する。
すると、セオさんがニッと笑って言った。あえて少し小声になって。
「おっ、王都の探偵さんに調べられるとは、ついにあのヨトウも年貢の納め時か!!探偵さんってのは確か、悪い奴の罪を暴き出して断罪してくれる、そういう偉い役回りなんだろ?」
「まぁ、そういうことです。そのためにもご協力願いたいと」
お支払いのために財布を出そうとした私だったけど、イデアがそれを制して、先に銀貨を一枚、カウンターに置く。
「……お代は、情報料も込みで」
じっとイデアを見返した後、セオさんはしばらく、考えるかのように黙っていた。
ナイフで手際よく、ジュースのためのりんごの皮をむいたり芯を取り去ったりはしていたけれど。
「そうか。じゃあ俺も、とっておきのを出してやんねぇとな」
そして考えた末、彼は本当にためになる情報を提供してくれた。
生活魔導具のミキサーの大きな音に隠すような形で。
「ヨトウな。少し前に、酒場の『日の出亭』で冒険者崩れの横柄な、妙な男たちと会ってたらしいですよ」
「日の出亭……」
酒場・日の出亭。
お酒とお食事が美味しくて安い、大衆食堂だって聞いたことがある。
酔った男のお客が多いからと聞いていて店に行ったことはないけれど。
「店が開くのは夜からで、今はまだおやっさんも寝てるんじゃないですかね。話を聞きに行くならあらかた仕込みが終わって開店前の一服してる、五時くらいがいいでしょうな。はい、りんごジュースを二つね」
「ありがとう、セオさん!!」
私は二つの意味でお礼を言う。
すると、セオさんは「礼を言われるまでもないさ」と首を横に振った。
「イリス様のお父様の、ドラセナ様の時代はよかったんですよ。モルヒ様に変わってからは散々、悪くなる一方だ。ヨトウも笠に着て威張り散らしてるしな。だから俺は王都の探偵さんとそれを案内するイリス様、って組み合わせに期待しているんでさ」
その口ぶりには、単に悪いことをしていそうなヨトウさんが捜査されること自体への期待だけじゃなくて、私に対する期待も込められているようにも感じた。
「それに、最近のイリス様は、いつも肩に鳥を乗せてらっしゃるだろ?さっきも、ド派手な黄色のやつを。ドラセナ様もイリス様くらいの年頃に鳥を連れられてましたわ。初めて召喚した精霊だっつって」
「え……お父様が?」
そうだったんだ……。
こんな形でお父様の話を聞くとは思わなかった。
そしてお父様が領主としてそこまで領民たちに慕われていた、ってことも知らなかった。
その肩にいた鳥が、ストレリチアだったのかな……?
「だから、跡継ぎと鳥の組み合わせなんてものを見たら、年寄りは何か起こるかもしんねぇって思って期待しちまうんですよ。実際に他にもそういう奴、いるんじゃないですかね?」
確かに、ここまでの流れでヨトウさんの話をしてくれた人のほとんどが、会話中に私の肩にいるチィをそわそわと見ながら話していたし、協力的だったような気がするわ。
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