第39話◇聞き込みって、デートみたい!?
「今日の午前中は、モルヒ公に会いにヨトウが南ストレリチアの屋敷に来るって言っていたね?」
「うん、予定は変わらないみたい。今朝もそう言ってた」
歩きながら、私たちは叔父様とヨトウさんの今日の会合について話す。
手を繋いで街歩きなんて、何だか少し、デートみたい……。
チィも肩にいるのに、勝手にそんなことを考えてしまう。
だって、こっちは人が少ない森の中じゃないし。
にぎやかでひときわ商店も多い大通りに私たちは向かっているのだ。
この辺りに住む恋人たちは大通りを連れ立って歩きながらお買い物するんだって、花屋のマリナさんが言ってた……。
全然買い物じゃないのに、こんなにドキドキして意識してしまっているのは、きっと私だけだわ。
だって、イデアはさっきからずっと、淡々と探偵としてのお仕事のお話をしているんだもの。
手だけがぎゅっと握ってきていて……「人通りが多くなるまで」というさっきの発言を忠実に守っているみたいで、自分から離れようとする様子はない。
けれども、何かしら恋愛的な意味でときめくようなことを言われるわけでもなく。
だから私も、変に意識し過ぎないようにと、必死に真面目なことを考えるようにして意識を戻している。
心なしか、右肩にいるチィが、からかいたそうにニヤニヤしている気がした。
気のせいじゃないと思う……。
「モルヒ公は何か君に言ってきたりした?」
「ううん。特に何も」
私は今朝の叔父様の様子を思い起こして、首を横に振った。
「実は朝から昼までのヨトウの尾行は既に他の者に頼んでいて、交代まで少し時間があるんだ。だからその間に街にヨトウについての聞き込みをしに行きたい。イリスは街の人に顔が利くだろうから、案内を頼めるかな?」
「ええ」
提案に頷いて、私たちはそのまま街へ向かった。
そこまで歩くとさすがに人通りが増してきたので、残念な気持ちになりつつも繋いだ手は離すしかなかった。
けれども、ちゃんと私が歩く速度に合わせて歩いてくれているのが、嬉しい。
イデアは既に変装済みで、鹿撃ち帽を被って「限りなく身に付けた人の存在感を薄くするストール」もつけている。
今はきっと「少し影が薄い、探偵風のダンディなおじさま」に他の人からは見えているはずだ。
領民たちは「あっ、イリス様だ」と私に気付くと、いつもは話しかけてくる場合もあるのだけれども、すぐ横に「この辺りではあまり見かけないタイプのおじさま」がいるのを見て、「あれっ、お客様のご案内のお仕事なのかな」みたいな表情になって、ペコリと頭を下げるだけに留まっている。
街中で噂の「あのシーニャの宿屋に来ている美しい貴公子たち」のひとりと連れ立って歩いている、とは全く思われていないようで、やっぱり魔法って不思議ですごい。
「私は探偵をしていて、現在、会計士のヨトウ・キャビッヂについて調べているのだが、何か情報を持っていないか?」
イデアは積極的にその「ペコリ」とした領民に話しかけて情報を得る。
すると「あっ、イリス様、頼まれて探偵さんの案内していたのか」と納得してもらえるから、私はそれ以上口を挟まず、ただニコニコと横でそのまま話を聞いていた。
同じように会う人ごとに質問を繰り返していくと、段々とヨトウさんの、私以外の人から見た「人となり」が分かってくる。
怒ったヨトウさんに突き飛ばされたみたいな、乱暴な対応をされているのは実は私だけではなかったみたいで、中には「そうそう、ヨトウのせいでこんなことがあった、あんなことがあった」と勢いづいて話してくれる領民もいた。
「総合すると――あまりいい噂は聞かなかったね。金銭トラブルと、柄が悪い者たちとの付き合いと、酔って横柄になって酒場で暴れていた話と……」
『最悪な男じゃないの』
「まぁ、そうね……」
ヨトウさんにまつわる色んなトラブルをたっぷり聞いてしまって、いつの間にか疲れた気持ちになってしまっていた。
「少し休む?」
「その方がいいかも……」
『私はちょっと気晴らしに散歩でもしてくるわ~』
全員「疲れた、少し休みたい」で気持ちは一致していたみたいだ。
ただ、チィは飛び去る瞬間に「二人っきりにしてあげるから、上手くやりなさいよ」なんて小声で言って、意味深な視線を送ってきていた。
そんな。
上手くやるって、どうするの……!!
チィのせいで、途端に「二人っきり」なことを意識させられてしまった。
そしてその「上手くやる」がどういうことかもろくに分からないまま、いくらか歩いた末に、私たちは果物を売る店の前に差し掛かる。
そこは隣のスペースに果物で作ったジュースやデザートを飲食するスペースがある、というお店で、私たちはその店に入ることにした。
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