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第38話◇可愛いって、服のことじゃなくて、私が!?

 それから数日、私は魔法の特訓の合間にお裁縫に忙殺される日々を過ごした。

 自室にいる時はもちろん、山小屋にみんなといる時も、隙を見てちくちくと針と糸を動かしていた。


 だって、ヨトウさんの尾行を決行するその日までに、ワンピースのお直しを間に合わせたかったんだもの。


 私の体型にサイズを合わせた上で、スカートはやっぱり少し短くしてちょうど膝下くらいまでの長さに。

 下にパニエを穿けば、足が見えてしまうこともきっとないはず。


 トレンチコートを着た時にもたつかないように袖の幅も調節して、手首の位置でボタンを留めるシングルカフスにした。


 元の襟は身ごろと同じ布地のシンブルな角襟になっていたけれど、繊細な白のレースで縁をトリミングする。


 切り取ったスカートの裾から作ったアスコットタイにも同じレースを重ね付けして、アイリスのマークを刺繍する。


 このアイリスの図案は、女神様が用意して下さった山小屋のアイテムについているモチーフをそのまま使わせてもらった。


 そんな力作のワンピースの上に、トレンチコートを着込んで。

 私はイデアと待ち合わせをした。


 ついに今日、私とイデアでヨトウさんを尾行することになったのだ。


 ウィリアムさんとアップルさんは青騎士隊の皆様との打ち合わせに向かって、ルークさんはというと、ヨトウさんが雇った私兵のメンバーたちについて探るために、酒場の方に聞き込みに行くみたい。


 その間、私たち、二人っきりなんだ……と事前に知ってしまったおかげで、ちょっと緊張してしまう。


 べ、別に、ちょっと新しいお洋服のお披露目を、イデアだけに先にすることになるからって、こんなに緊張する必要はないはずなのに……。


 何て言われるのかしら。

 ちゃんと似合ってるのかな。

 王都から来た人の目から見て、変じゃあないわよね……?


 アネモネに見つからないようにと注意して屋敷を抜け出すと、裏門を出てすぐのところにイデアが待ってくれていた。


「イ、イデア!!」


 声をかけると、パッとその顔を上げてこちらを見る。

 何故かとても驚いたようにその目を見開いて、彼は私を見ていた。


「可愛い……」


 その口からこぼれ落ちるように出てきた彼の言葉に、さすがに私も、隠せないくらいに大きく動揺してしまった。


「ふえっ……!?あっ、お洋服のことねっ、私も結構、可愛くできたと思うわ!!やっと納得いく形に出来上がったの!!」


 開口一番に言われたから、一瞬混乱してしまう。

「服」の感想を言ったんだろうに、私自身のことを言われたのかもって。


 えへへ、と私はお洋服をお披露目するように両手で軽くスカートをつまんで、久しぶりに淑女の礼をしてみる。

 ずっと昔、お母様に教わったのを思い出しながら。


 すると、イデアは困った顔になってその手で口元を覆っていた。

 その頬が、すっかり赤くなっていて。


「いや、言いたいのは、そうじゃなくて。もちろん、服自体もとても似合っているしすごく可愛いんだけど、それを着たイリス本人がとても可愛い、ってことなんだけど……」


 か、勘違いじゃなかったなんて。


「そっ、そう、かな。褒めてくれて、ありがとう……」


 私も応えながら、どんどん顔が熱くなっていることに気が付く。

 お互い赤面し合って見合っていると。


『ほらっ、気を抜いてちゃだめよ、二人とも~!!』


 この空気感に耐えかねたみたいで、ちょうど右肩にいたチィの檄が飛んできてしまった。

 黄色の南国仕様に変装した彼女の、その目に鮮やかな色の刺激もあって、途端、私たちはハッと正気に戻る。


「っ、そっ、そうね!!」

「よし、行こうかっ……」


 私は「お仕事のためにこの服を着てきてるんだからね、浮かれすぎないの!!」と自分自身に言い聞かせる。


 けれど、イデアは私にその手を差し出してくれた。

 明らかに、エスコートのための手を。


 そして、それはとても真剣な表情で、だった。

 儀礼的なものというより、ちゃんとそうしたいんだって、伝わってくるような目をしていた。

 頬もまだ少し赤みが差したままで。


 これ以上、浮かれさせないで欲しいのに……。

 イデアは叔父様の問題が終わったら、王都に帰ってしまう人なのに。


 このままだと、ずっと一緒にいたくなってしまう。


 ここまで一緒にいられるのも、あくまでも、彼が南ストレリチア領にいる間だけなんだろうし……。

 こうして探偵団の助手をやれているのも、私を護衛するのに都合がいいからなんだろうし……。


「少しの時間だけど、エスコートさせて欲しい。大通りに入って人通りが多くなるまで」

「……うん。ありがとう、イデア」


 私は頷いて、その手を取ってしまう。

 断れるはずなんてなくて。


 このまま、なるだけ長い間手を繋げていられたら嬉しいのに、と思いながら。


 私はこの身にまとった「青騎士隊と同じ布地の制服」を強く意識する。

「見習い」には過ぎたお洋服だと、つくづく思う。


 ――もし、探偵団の「助手」じゃなくて、正式なメンバーに今後なれたとしたら。

 そしたら、この服に恥じない存在として、もっと堂々と着ていられるのだろうか。


 たとえば私がもっと強くなって、自力で戦える状態になったなら。

 もしかして、探偵団の任務があるたびに私も呼ばれて、イデアと一緒にいられるようになるのかしら。


 だって、「ウィリアムさんは私の武力を認めた」ってアップルさんが言ってた。

 騎士団の人がそう認めて下さったってことは、私は意外と「できる」のかもしれない。


 チィも戦い方について、一族の人に負けないようにと時々アドバイスしてくれている。


 だったら、試してみてもいいのかもしれない。


 単に自分の身を守りたいためだけに戦い方を学ぶんじゃなくて、この人の隣にずっと居続けるために、そっちの意味でも、私は少し頑張ってみようと思う。

 少しでも続き気になられましたら、★★★★★とブクマで応援して頂けると嬉しいです!

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