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第37話◇探偵団の制服サンプル、頂けるんですか!?

 魔法の話が終わって一息ついて。

 私は、私の魔法のせいで床に散らばったどんぐりを瓶に集めている。


 ちなみに、これはチィのおやつだ。

 魔法で出されたものなのだから、召喚時に彼女がやっていたようにマナに変換して食べてしまえばいいのだ。


『イリスっ、それ、食べていいのよね!?』


 瓶の中を見るチィのつぶらな瞳が、期待に満ちてギラギラしていた。

 そのくらい、ものすごく美味しいものらしい。


「食べ過ぎないようにしてね」


 瓶をテーブルの上に置くと、チィは大喜びでどんぐりをマナ分解しながら食べ始めた。


「そうそう。無理ならいいんだけど、イリスくん、ちょっと実験台になってくれる?」


 そんなことをしていると、思い出したかのようにアップルさんが話しかけてきた。


「えっ、じっ、実験台ですか!?」

「悪いことじゃあないからさぁ~」


 思わずのけぞってしまったのだけれど、アップルさんはじりっと距離を詰めてくる。


「アップル。イリスを実験台にするのは、さすがにやめてあげてくれ……」


 気付いたイデアが止めてくれたからそれ以上に距離を詰められることはなかったけれど、アップルさんは少し拗ねるような顔つきになった。


「だーって、お前たち野郎どもに服の着心地や通気性みたいな、繊細なことを訊いても、全く役に立たないじゃないか!!」

「え、服、ですか?」


 思いがけない提案に、今度は私の方が身を乗り出してアップルさんに訊いてしまうことになった。


 服は、令嬢らしく自分を着飾る方向にはあまり向いていないのだけど、実はわりと興味があることだったりする。


 お母様のとアネモネのお下がりのドレスを手直しする時に、素敵と感じたお洋服のデザインをこっそり取り入れてみたりもしているのよね。

 たまに手芸用品のお店に行くのも好き。


「実は今度、我々探偵団の制服を作ろうと思っててね。着心地を試して欲しいんだよ。サンプルはこれなんだけど」


 アップルさんが人差し指を軽く振ると、ポン、と私の目の前に一着のワンピースが現れた。


「防火・防水・防汚損の魔法を重ね掛けした加工布を初めて開発したんだ。で、ワンピースに仕立ててもらった。君にはこれのモニターになってもらいたくてね。探偵団助手として」

「わぁ……!!」


 私は思わず歓声を上げてしまう。

 やっぱり無詠唱かつ、どこからどう現れたのかもよく分からないくらいのすごい魔法だからとても興奮してしまったんだけど、それに加えて、出てきたワンピースの布地自体の質の良さにも感激して。


「すごい、とてもいい布地……!!綺麗な濃紺色」


 私は近くで見たり少し離れて見たり斜めから見たりと、動き回って視点を変えることでその美しさを堪能する。


 デザインはとてもシンプルなワンピースだったけれど、冬の寒さに対応できる少し厚手のしっかりした生地は、少し毛足が長いからか光沢があって、黒に近い紺という落ち着いた色も相まって、とても上品だった。


「そうだろう、そうだろう。何しろ、国の機関の制服を仕立てている業者から、元の布は取り寄せているからね。近衛の青騎士隊の制服と同じ布を」

「青騎士隊の制服と、同じ布!?」

「ああ、確かにそうだな。いつも着ているものと同様だ」

「本当だ~。でもワンピースになるとまた印象が違うね!!」


 アップルさんが開示した情報に思わず大きな声になってしまったのだけれど、背後からヒョイと覗き込んできたウィリアムさんとルークさんからもしっかりとお墨付きが出てしまったため、「ほ、本当に本物なんだぁぁ!!」と私は涙が出そうになるくらいに感激してしまう。

 こんな上質な布地、初めて見るわ……!!


「感想を言ってくれるなら、この服は君にそのままあげよう」


 この機会を逃したらもう二度と見れないかも、それならじっくり見ておかなきゃ、と思った私に、アップルさんはあっさりとすごいことを言ってきた。


「ほ、本当に頂いてもいいんですか!?こんな素晴らしい生地の服を!?」


 一瞬騙されているんじゃないかと改めてアップルさんの顔をまじまじと見つめるけど、そんな気配は全くない。


「全然いいよ~。しっかり着てもらわないと、感想なんて言えないもんね」


 ふわっ、と優しい風に乗せて、ワンピースは私の腕の中に委ねられる。

「はい、どうぞ」とでも言うように。


「わあぁ、ありがとうございます!!新しいお洋服、嬉しいです、それもこんな素晴らしいものなんて……!!」


 実は、誰かが着古した「お下がり」ではない、ほぼ新品のお洋服を手に入れたのは、たぶん両親がいた頃以来だと思う。


「あのっ、アップルさんっ、これ、少しデザインは変えても大丈夫ですか!?布を切ったり縫ったりしても、魔法の効果が薄れたり消えたりは、しませんか!?」

「大丈夫だよー。イリスくんの好きに弄ってくれて」

「やったぁ!!すごい、すごい~!!素敵すぎる!!本当にありがとうございます、アップルさん!!」


 気持ちが赴くまま好きなだけ弄ってもいいよ、というお墨付きを得たと思うと、「ああしたい、いや、やっぱりこうしたいかも」なんて思って、すごくワクワクしてきてしまう。


 きゃーっ、どんなふうにしようかな!?

 動きやすくなるように少し、下品にならない長さにスカートは短くして、あとは袖口も少し弄りたいかも!!

 それから、それから……!!


 喜びのあまり、ワンピースを抱きしめたまま妄想を爆発させてしまい、私は耐え切れずクルクルとその場で回ってしまうくらいに浮かれてしまう。


「おおっ、すごいなイリスくん、大興奮だねぇ……」


 あまりの私の勢いに、さすがのアップルさんも他のみんなも、苦笑いになってしまっていた。


 だって、ものすごく嬉しかったんだもの!!

 仕方ないわ!!

 少しでも続き気になられましたら、★★★★★とブクマで応援して頂けると嬉しいです!

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