第35話◇えっ、探偵っていえば「変装」なの?
「そう、男三人は誰が尾行を担当しても、そのままだと目立つんだ。それに、イリスには街のことを教えてもらいたいから一緒についてきてくれるととても助かるんだけど、イリスもヨトウに顔を知られている」
でもイデアは普通に真面目に話を進めてしまったし、他の二人も特に対応しなかったので、私も流しますね、ルークさん、ごめんなさい。
「ああー……それは、確かにそうですね」
私は大きく頷く。
私がそのままの姿で尾行すると、いよいよ疑われてしまうと思う。
「というわけで、変装しなければならないんだよね」
すると、イデアは妙に楽し気な声色で呟いた。
それはこれまで聞いたことがなかった、彼の本気のワクワク声だった。
「へ、変装、するの?」
「そう。探偵であるなら、やっぱり変装をしないとね!!」
「い、イデア?」
その勢いについていけず、私はつい、まじまじとイデアを見守ってしまう。
「変装、好きだよねぇ、だんちょー」
「そうだな……。確か、好んでいる小説の探偵が、変装の達人なのだったか」
何故かルークさんとウィリアムさんは呆れた顔つきになっていて、アップルさんは途端にテンションを上げていた。
「よーし、そういうことなら全員覚悟するといい!!私が発明した魔導変装コレクションが、長年の沈黙を破ってついに火を噴くぞ!!女神様にも御覧入れようか!!」
アップルさんがパチンと指を鳴らすと、それに合わせてその背後の空間が、大きくブワンと歪む。
そしてそこから、とんでもない量の服やカツラ、靴やコートなどが溢れ出てきた。
「でかした、アップル!!」
そう口走って手を叩いたイデアは、ものすごく楽しそうなのだけれど……。
話題がちょっと別の方向にズレてしまったように感じるのは、気のせいなのかしら?
それからは五人と一羽、全員でそれぞれ色んなものを身に付けてみて、大騒ぎだった。
「これが似合う」とか「絶対似合わない」とか言い合って。
そしてそれぞれに、変装に適した髪色のカツラや服や魔導具などのアイテムがようやく選ばれた。
私は、濃いこげ茶の、腰までの直毛のカツラ。
「別人に見えるもの」をと意識したし、普段癖っ毛だからこその憧れでこれに決めた。
瞳の色も合わせるようにこげ茶に。
これはそう見える魔法がかかった眼鏡を使うことになった。
それから、防水の魔法がかかっている、白に近いベージュ色のトレンチコートもお借りすることに。
内側に取り外しができる、冬用の綿がしっかり入ったライナーがついているから、今の季節でもしっかり温かそうだ。
チィも何故か参戦。
「一日で消える魔法塗料」で、色鮮やかな、南国めいた黄色の小鳥に。
イデアは。
正直、何を着てみても素敵だったから、私はとてもドキドキしたんだけど、何でか一番似合わない付けヒゲが異様に気に入ってしまったみたい。
それだけは説得の上で何とかやめさせて、アップルさんがチェック柄の鹿撃ち帽に「どんなにイデアの顔を思い出そうとしても、例の探偵小説のダンディな主人公の絵に頭の中ですり替わってしまう」魔法をかけてあげていた。
意外にもイデアの次にこの変装を楽しんでいたのはウィリアムさんで、女性に騒がれるのが苦手らしい彼は「この格好ならば女性陣に絶対注目されないだろう」とおじいさんの姿になる、持っている間老いて見える魔導具の鏡を手に瞳を輝かせていたわけだけど、正直「ただの歴戦のかっこいい武人おじいさん」に仕上がってしまっただけだったので、ウィリアムさんの希望は、完全には果たされないと思うなぁ……。
ルークさんはアップルさんのせいでうっかり手にすることになった「性別反転」の魔法薬を飲んでしまって「とんでもなく綺麗なお姉様」にされてしまった。
一通り大声で騒いだ後に「えっ、でも俺、よく見るとすっごい美女過ぎない?スタイルもいいし。普通に傾国できそうだし、ガチで今回の作戦中に使えそうなんだけど?」と真顔になっていたので、案外平気そうだった。
最後に、アップルさんは自らの変身魔法で五歳くらいの茶トラ猫の獣人の女の子に。
エルフ耳は猫耳になっていたけれど、右耳のりんごの耳飾りはツインテールの髪をまとめる右の髪飾りにくっついた形になっていた。
そしてふさふさの尻尾がついている。
すごい、種族や年齢まで魔法で変えてしまえるなんて、さすがアップルさんだわ。
「よし。それぞれ変装する時はこれでいこうか」
大体の姿が決まったところでアップルさんが全員分の「限りなく身に付けた人の存在感を薄くするストール」を支給して、私たちの南ストレリチアでの隠密行動時の服装が、これで決まったのだった。
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