第33話◇忘れたけど、私たぶんすごく大事なこと考えてた
「はーい、それはね、この私が担当しちゃうよ~!!」
声と共にブワッと足元の落ち葉が舞い上がる。
思わず閉じてしまった目を開けると、つむじ風が起きたかのように渦を巻いたその中に、いつの間にか一人の女性が立っていた。
エルフさんだ。
背中までの金髪はゆるく紐でまとめられていて、特徴的な耳、その右の耳たぶには、銀と赤い石で作られたりんごモチーフの耳飾りがついていた。
研究者のような白衣の下に着ているのは、たぶん魔法官の制服だと思う。
先日来た財務官のヤニックさんと法務官のソフィアさんとは、それぞれ「似ているけど違っている」デザインだ。
所属が見てすぐに分かるようにしてあるのだろう。
「わ……!!」
すごいっ、ただの落ち葉が舞っただけなのに、何だか美しい絵画や演劇の一シーンみたいで、とても綺麗だったわ。
それに、今の魔法って、もしかして無詠唱だった!?
魔法というものは正確に出そうとすればするほど、具体性を持たせるためにと、呪文の内容がややこしく長くなっていくものらしい。
そのため、簡潔な呪文でコントロールされた大きな魔法を出せる者ほど良い魔法使いと判断されるようだ。
無詠唱でとてもあっさりと魔法を使うこの人は、本当にすごい実力の持ち主の魔法官、ということ……!!
こんな素晴らしい方に判断して頂けるなんて!!
イデア、本当にすごい方を呼んでくれたのね……!!
「私は魔法官のアップルだよ!!いやー、女の子がいるっていいね!!華やかだ!!私以外は全員男だから、少々むさ苦しくてねぇ~。イリスくん、私のことはお気軽にアップルさんって呼んでおくれ。後でしっかり魔力鑑定しようね~」
「はいっ、よろしくお願いします!!」
にこやかに微笑まれて、スッと手を差し出される。
とことん友好的な感じが嬉しい。
私はその手をぐっと握り返した。
「あとは……ああ、来たね。覚えてるよね。あっちの二人」
イデアの言葉に振り向くと、前に一度遭遇した、あの二人の男の人たちが歩いてくる。
あの黒髪の人と、銀髪の人。
「だんちょー!!」
黒髪の方のその人がイデアに呼びかけてきながら、大きくその手を振っていた。
そこで私はイデアが「団長」って呼ばれていることを初めて知ったのだった。
それはきっと「探偵団」の団長さん、ってことなんだと思う。
「あ。ルークさんと、ウィリアムさん……?」
「うん」
揃って、相変わらずの美形っぷりだった。
ただ歩いているだけでキラキラしているわ。
「こ、こんにちはっ」
「こんにちは~、俺、ルークねっ。ねぇ、イリスちゃんって呼んでいい?」
頭を下げると、さっそくルークさんが話しかけてきた。
「はっ、はいっ!!」
やっぱり少し軟派な感じだけど、笑顔だったしとても話しやすい人だったので、ホッとする。
そして。
「ウィリアムだ。よろしく頼む」
銀髪のその人に笑顔はなかった。
威嚇もなかったけれど。
「よ、よろしくお願いしますっ……」
緊張しつつも、私は挨拶をする。
魔力が動く気配がないことが明らかだったから、そこには少し安心していると。
「ときに、イリス・フロレンティナ・ストレリチア。先日対峙した際に、私の氷魔法に対して『風』と『火』の力で対応しようとしたな?」
ウィリアムさんは突然、ものすごい勢いで私に話しかけてきた。
なので、わたしは驚きのあまり固まってしまう。
「しかし、最終的には、あえて魔法を発現させないことを選んでいた。その判断も素早く、冷静だった。戦闘センスだけではなく、度胸もあるようだ。まだ実戦不足のようだが、このまま修行を積めば素晴らしい武人に育つだろう」
「えっ、えっ?」
お、おかしいな?今回は威圧の魔法自体は出されてないみたいなのに、何故かものすごい威圧感がっ……!!
「わーっ、待て待て!!」
「こら、ウィル、何してるの!!」
近くに詰め寄って私を尋問するような形になるのを防ぐためか、いつの間にかイデアとルークさんが二人がかりでウィリアムさんを羽交い絞めにしていた。
「あはは。話では聞いてたけど、ウィリアムくんは本当にイリスくんの武力を認めたんだねぇ」
「えっ、ぶ、武力、認められちゃったんですか?私!?」
どういうことなの。
男の子だけで取っ組み合いみたいな形になっているのはあまり見たことなくて、びっくりしちゃったけれど、クスクスとアップルさんは笑っているから、きっと全くシリアスな場面ではないのだと思うけど。
「何だ、お前たち」
現にウィリアムさんはイデアとルークさんに軽く眉をしかめて見せただけだった。
「もーっ……ほぼ初対面の女の子に、本格的な魔法戦闘談義をぶつけないでってばぁ……」
ルークさんのその言葉で、私はようやくウィリアムさんが戦闘談義、詳しくは先日会った時の私の魔法について私に聞きたかったのだと理解する。
「あっ、いえ、私は戦いのこと話すの、全然苦手じゃないので、そこはお気遣い頂かなくても大丈夫ですっ!!」
私もあの時のウィリアムさんの魔法攻撃については知りたかったからそう明言すると、ウィリアムさんはパっと顔を上げて話を先に進めようとする。
「そうか!!ならば……」
「ウィル、その件は話すとしても後だ。先に今後の作戦について話しておきたい」
けれど、そのウィリアムさんの台詞はイデアによって打ち切られることとなった。
そして私は、急に地面から体が浮いてしまったような浮遊感と、まるで背後から包まれるような温かさを体感する。
「うっわ、だんちょー、何その、本人に気付かれないくらいの速攻でイリスちゃんを抱き上げて、早業でウィルを引き剥がしてるの……。それ、もしかして無自覚なの?」
「え?何がだ、ルーク?」
「うーん、自覚してないならいいや……。もう、本気でベタ惚れてんじゃん~!!そりゃ彼女、納得の可愛さだけど~!!」
あれ?
何かしら、今の浮遊感は。
そして何かの魔力の動きも。
それに、もしかして私、移動しているの?どうして?
その「おかしな魔法の気配」が気になり過ぎて、一瞬、イデアとルークさんの会話が私には遠く聞こえる。
よくよく注意して周囲を見回してみて、その違和感に、やっと私は気が付いた。
私の目の前にウィリアムさん、その背後にルークさんとイデアがいたはずなのに。
いつの間にか、目の前にいたはずのウィリアムさんがさっきよりも遠い位置にいる。
さっきの一瞬で私が立っている位置が変わった……?
そして、ウィリアムさんからかばうみたいに、イデアが私の前に立っていた。
つまり、イデアが何かしたみたい?
だとしたら、これはイデアの魔法だったりするの?
でも、四属性の気配は全く感じなかったのに。
まさか、四属性以外ってなると光か闇ってことになるし、それは王族しか――
「ていうかさ、何で俺一人でツッコミしまくってるわけ!?もしかしてこの集団、ボケしかいないの!?」
『お望みなら私もツッコミに回るけれど?』
ツッコミ不足を嘆くルークさん。
そこに突然、ポケットから飛び出したチィが飛び込んでいったもんだから、当然場は大混乱に陥る。
「鳥が、しゃべった!?」
「えーっ!?何だい何だい、イリスくん、この鳥さんは!?」
「むっ!?この鳥、一切の隙がない、だと……!?これは一体」
『ああー、また私のおしゃべりの謎の話からしないとダメなの?ぶっちゃけめんどくさいわぁ』
「わぁぁ、皆様驚かせてごめんなさいっ、この子、チィは私の精霊なんです~!!」
「えっ、精霊!?」
「イリスちゃんの!?」
その後、私はみんなに対して精霊・チィの説明をすることばかりに気を取られてしまい、さっきのイデアの謎の魔法について考えたことも、彼に話を訊くことも、すっかり忘れてしまったのだった。
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