第31話◇あなたも女神様の加護持ちだったの!?
『……はぁ。やっと落ち着いたわね』
数分後にチィが口走り、私とイデアもその言葉に頷く。
まだ興奮の名残で顔の赤さは残っているものの、相手と顔を見合わせてギリギリ話せる状態までには落ち着いていた。
『さっきの続きからね。しゃべった、って言うけど、そりゃしゃべりもするわよ。だって、私は特別な鳥の精霊だもの!!』
翼を人間の手のようにして胸元を押さえて、まるで「ふふん」とでもいうように、チィは羽毛でふくふくした胸を張っている。
得意げだ。
なので、私は思わずイデアに対して解説した。
「あっ、あのね、イデア。叔父様が先日言っていたの。ストレリチアにおいて鳥の精霊は、他の種類の精霊よりも、ずっと格上になるんだって」
それを聞いたイデアも、思い出したことがあるようだ。
少し遠い目をして目線を斜め上に投げている。
「そういえば、建国伝説にも記述がある。アストラル王国の始祖王である英雄・アストルが初めて精霊女王・ストレリチアに出会った時には、彼女は鳥の姿を取っていたと……」
すると、チィは嬉しそうに頷いた。
『あらっ、あなたちゃんとその頃の話を知ってるのね!!お勉強してるじゃない。そうよぉ、だから私は特別な鳥なの!!』
思いのほかイデアの返事が嬉しかったようで、チィはまたその胸をグンとそらした。
「でもチィ、私以外の人の前では話さないようにする、ってこの前言ってたのに。それを曲げてよかったの?」
確かそう宣言していたけれど、と尋ねると、チィは「その通りよ」と言うようにこくりと頷いた。
『そうね。でも彼も、女神様の加護を受けているでしょう?だったら完全に信用してもいいかもって思ったの』
「えっ、女神様!?イデアも、そうなの!?」
まさかイデアもそうだったとは思わず、私は声を上げて驚いてしまう。
イデアも「まさか気付かれるとは」と言いたげにその目を見開いてチィに注目した。
「何故それが……」
『その剣に組み込まれた女神様の加護も分からないほどに鈍感な精霊なんて、いるわけないじゃない。それに剣の形自体も、アストルに与えられていたものと、すごくそっくりだわ』
根拠を求めようとするイデアに、チィはビシッ!!とイデアの腰の剣をその翼で指し示す。
『それに……あなた、似過ぎているのよね。魔力の質が。今ここでは、誰と、とは言わないであげるけどね?』
それから、チラ、とイデアの顔を見る、チィ。
『剣とあなたの血、その両方が信用できる、ってことね。だから、イリスのこともそれほど悪いようにはしない、任せられる人物かもと思って』
イデアは、チィが知っている誰かに、似ているの……?
女神様の加護があることに加えて、そっちもあるから、チィは彼を信用する、ということなんだろうか。
私が考えながらイデアの顔を見ていると、彼はとても真剣な表情になってチィを見返して、断言した。
「この名に懸けて、絶対に、イリスのことは守る。私はもうとっくに、そう決めている」
言葉と一緒にイデアは誓うように胸に手を当てていて、それは何だか、騎士や貴公子の方がする、格式にのっとった誓いの仕草のようにも見えた。
わぁ……。
私のことを考えてそう言ってくれているんだって思うと、すごくイデアのことがかっこよく思えて、なんだかすごくドキドキしてしまうわ。
ときめく気持ちが湧いてきて、私はまた顔を赤くしてしまう。
だから、素直にその気持ちを言葉にした。
「あ、あの……イデア。ありがとう。私のことを、そんなふうに思ってくれて」
すると、イデアの顔もつられたように赤面してしまった。
「っ、当然のことだよ。イリス。君はちゃんと公爵令嬢で精霊姫として、その立場を保護されるべき人なんだから」
『だーかーらー、二人ともっ、空気が、甘ぁぁい!!』
またチィが私たちにつっこんで。
そんなふうに騒いで、また激しくなっていく鼓動を感じながらも、私は少し別のことも頭の片隅で考えていた。
……最近、ちょっと気付いたことがあるの。
イデアはたまに自分のことを「俺」じゃなくて「私」と言うことがある。
慌てた時や、逆にとても真剣に話す時に。
まるでそっちの方が言い慣れているみたいに。
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