第30話◇チィ、私たちそんなにイチャイチャしてたっ!?
彼の唇が触れようとした、まさにその瞬間。
『こらーっ!!浮かれすぎるんじゃないわよっ、青少年!!まだそういうのは、イリスには早ぁぁい!!』
「ブフッ!?」
バサバサーッ!!と現れた鳥の羽が、イデアの顔を思いっきり叩いた。
私の手の甲とイデアの唇の間、完全に阻止するやり方で翼が挟まる形になって、イデアが吹き出す。
いつの間にか、ポケットの中の宝玉で休んでいたはずのチィが私の右手を守る態勢で飛び出してきていた。
「チィ!?いつの間に!!」
実は、事情聴取の間は、チィが元々入っていたあの宝玉に再び入れた状態で、ポケットの中にいてもらっていた。
精霊にとっては宝玉というものは専用の個室みたいな役割を果たすものらしくて、彼女には結構居心地がいいみたい。
だから、彼女がここで姿を現した上にイデアに話しかけてしまうなんて、思ってもみなかったことだった。
案の定、イデアもびっくりして固まってしまっている。
「い、いたのか!!それにっ、しゃっ、しゃべった!?」
そんなふうにまだ驚きに目を見開いたままの私たちに、胸を張って彼女は一気に言いきった。
『ふふん。いたわ。そして、ずーっとあなたたちがイチャイチャしていたところも、見ていたわね!!ずーっと空気が甘ったる過ぎて、もーう、つっこみたくてつっこみたくて、仕方なかったのよぉぉ!!』
「い、イチャイチャなんて、してないわよっ!?」
私は必死になって否定する。
だっ、だってっ、イチャイチャなんてことは、恋人がすることでしょう?
私とイデアは、本当はまだ……っ。
でも、それでも今の私とイデアって他の人から見たら、少しは親しい恋人のようにも見えるのかしらっ?
そんなことしてたなんて、恥ずかしい……っ。
「そっ、そんなつもりは、私は……っ」
イデアは慌てて言い繕おうとしていて、顔が赤くなっている。
それに気が付いてしまったら、私の顔も、つられたように赤くなってしまった。
そのタイミングで、ちょうどよくバチリと、お互いの視線が重なってしまう。
顔を見合わせたまま、私たちふたりは赤面し合うことになった。
「っ、イリス、さっきのは……本当にすまなかった、私としたところが、思わず気持ちが先走って、あんなことを……」
完全に耳まで赤くなってしまっている、イデアの顔。
謝罪はともかく、その口元を隠すように右手で押さえた状態で、そんなことを言わないで欲しいのに。
今、そこが触れちゃいそうだったんだって、こっちは余計に意識しちゃうじゃないの……!!
「い、いいの。大丈夫だからっ、私っ……でもあれは、別に、全然嫌だったとかじゃなくてっ……」
私も、暑すぎて少しおかしいわ。
何だか変なことを言っているような気がするっ……。
『ほらーっ、やっぱりイチャイチャしてるじゃないの!!』
つっこまれたから、私とイデアは二人一緒にブンブンと首を振って繰り返し否定する。
「し、してない!!」
「してないもの……っ!!」
『現に、してるじゃないの!!』
私とイデアは慌て過ぎて、チィもつっこみ過ぎて、いつのまにか、全員がゼイゼイと息を乱していた。
「す、少し、落ち着こうか……みんな」
イデアが提案して、私もチィも苦しさにこくこくと頷く。
そうして三人揃ってほぼ沈黙したまま、三者三様に何とか呼吸を整えるという、謎の時間がやってきてしまった。
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