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第23話◇信じたい人

 思わず下を見てしまったのは、ドキドキして顔を見れなくなっただけだったけど、イデアは心配そうになって私の表情を覗き込もうとしてくる。


「ごめんね、ウィリアムが君を威圧してしまって。決して悪気があったわけではないんだ。まだ当てられたままだったりする?つらい?」


 そういうふうに本気で体調の心配をさせたいわけじゃなかったから、私はブンブンと頭を振った。


「あ……そう、見えたかしら?体調は大丈夫。ただ、それとは全く違うことで少し落ち込んでいて」


 ウィリアムさんの威圧はほんの一瞬のことだったから、平気だ。

 直後にルークさんに声をかけられて緊張感が緩んだ感じもあったし、イデアも気にかけてくれたので十分だ。


「実は、あの日以降、何度も叔父様に魔法が使えるようになったし精霊とも契約した、と伝えてはいるんだけど、ちっともまともに取り合ってくれなくて……。何が何でも屋敷に魔法官を呼びたくはない、って思ってるみたい」


 どちらかというと、今の悩みはこちらだ。


 あの叔父様に無理やり話を打ち切られて私室に逃げられた時以降、何回もこの話を持ち出そうとしたけれど、何だかんだと理由を付けられて叔父様には避けられている。


「そうか……。モルヒ公も、意外と粘るね。無駄なことなのに。ふふ、でも、大丈夫。今だけのことだから」


 けれど、ふっとイデアは笑う。微妙にクスクスと笑い声まで漏らして。「本当に心配ないよ」とでもいうように。


「今だけ?」

「うん。このまま待っていれば大丈夫だよ」

「……どういうこと?」


 全然分からないんだけれど。


 私は首を傾げて訊き返す。

 けれども、イデアは教えてくれない。

 ただ含み笑いで返してくるだけだ。


「秘密。でも確実に解決するから、あと少しだけ待っていて」


 イデアの言うことは、信じたいけれど……どうなのかしら。


 それでも、彼のその台詞はただの気休めや慰め程度の発言ほどは軽くなさそうに思えたし、確かにホッとしてしまう。


 そろそろ、信じて向き合ってみてもいいの……?

 私はもう何度も、彼に対するこの問いを、自分の心の中で繰り返している。


 彼といると、不思議とずっと昔の、子供の頃にお城の薔薇園でアルウィン殿下と過ごした時の楽しさに似てるかも、って感じてしまうのよね……。

 違う人のはずなのに。


「ところで、あの山小屋って使えるの?」


 どうなんだろう、と考えこんでいると、突然イデアに訊かれてしまって、私は少しドキッとする。


「……たぶん。使ってもいいんだと思う」


 私は山小屋の前に立つと、ノブに手を伸ばして、サッとドアを開け放つ。


「へぇ、中はこんなふうになっていたのか……」


 呟いたイデアは、山小屋に入れたことに対して、妙に感慨深そうな表情になっていた。


 先日ひとりで見たはずだけれど、改めてイデアと一緒に山小屋の詳細をもう一度調べてみることにする。

 やっぱり気になるのは丁寧に置かれた食器類やブランケットのようで、イデアはまじまじとそれらを手に取って確認していた。


「暖炉、使ってみる?最近はずいぶん寒くなってきたし、外で待ち合わせするのもつらくなってきたものね」


 私は暖炉に近づく。

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